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面接解体新書第5弾|企業分析と志望動機

企業分析で調べるべき情報は、使い道から決まる

企業分析で消耗する人は、線引きの原則を持っていない

企業分析は、際限なく広げられる作業である。会社のホームページ、採用サイト、社長メッセージ、事業紹介、ニュースリリース、業界紙の記事、口コミサイト、決算資料、有価証券報告書。読もうと思えばいくらでも読める。

そして、いくら読んでも「まだ足りない気がする」という感覚は消えない。これは、どこまで調べれば十分かを判定する基準を持っていないからである。基準がないので、終了条件が定義できない。

私は、次の一つの原則で線引きしていた。

3点セット(①御社の業務/②御社で活躍できる素養/③御社を辞めない理由)の説明に使える情報だけを調べる。使い道が説明できない情報は、調べる必要がない。

この原則は、終了条件を定義してくれる。3点セットが説明できる状態になったら、そこで企業分析は終わりである。それ以上調べても、面接で使う場所がない。

なぜこの原則になるのか

企業分析は、それ自体が目的ではない。面接で3点セットを証明するための材料集めである。

面接官が組織に報告できる合格理由は、突き詰めれば「この人物は当社で活躍し、かつ辞めない」の一点である。そして、それを証明する構成要素が3点セットである。

とすると、企業に関する知識のうち、面接で価値を持つのは3点セットの証明に使えるものだけということになる。

  • 使えるもの → 面接官の報告文に転記されうる
  • 使えないもの → どれだけ知っていても、報告文に載らない

創業年、従業員数、拠点数、社長の経歴。これらは知識としては企業に関するものだが、3点セットのどれも証明しない。知っていることを示しても、「調べてきたのは分かった」で終わる。 加点にならないとは言わないが、投下した時間に対する見返りは著しく小さい。

実際に調べていた4種類の情報

原則から演繹すると、調べるべき対象は4つに絞られる。私が実際に見ていたのはこの4つである。

1. 他社と比較した強み

証明できるもの: ③御社を辞めない理由

「なぜ他社ではなく御社なのか」という問いに答えるために必要である。

同じ業界の中で、御社が最も適していることを示すには、他社との差分を知らなければならない。差分がなければ、比較の論理が成立しない。「御社が良いと思いました」は、他社を見ていない人でも言える。だから証明にならない。

ここで重要なのは、企業の強みそれ自体には良し悪しがない、という点である。「大規模案件に強い」という特徴は、腰を据えて取り組みたい人にとっては長所であり、短いサイクルで多くの経験を積みたい人にとっては短所になる。自分の就活の軸という前提を置いて初めて、特徴は長所または短所に変換される。 だから調べるべきは「強み」そのものというより、「自分の軸に照らして評価できる形の特徴」である。

2. 理念

証明できるもの: ③御社を辞めない理由

理念は、その企業が何を大事にしているかの宣言である。自分の価値観との一致・不一致を語る材料になる。

ただし、理念は抽象度が高く、企業ごとの差が出にくい。「顧客第一」「社会への貢献」といった言葉は、どの企業も掲げている。理念だけで志望動機を作ると、他社にも通用する文章になってしまう。 理念は、次に述べるIR情報と組み合わせて初めて機能する。

3. 業界(ビジネスモデルと将来の変化)

証明できるもの: ①御社の業務/②御社で活躍できる素養

業界の収益モデルを理解しないと、その企業が何をして稼いでいるのかが分からない。何をして稼いでいるのかが分からなければ、日々の業務の中身も分からない。業務が分からなければ、そこで活躍する素養も導出できない。

①と②は、業界のビジネスモデル理解を土台にして初めて組み立てられる。

加えて、業界が10年スケールでどう変化すると言われているかを掴んでおく。これは最終面接の逆質問で使う。私の場合、業界の変遷に関する書籍を1冊読むことで、この部分を賄っていた。専門家になる必要はなく、10年スケールの変化を語る語彙を得ることが目的である。

4. IR資料、特に中期経営計画

証明できるもの: ③御社を辞めない理由(最も強力)

これが、私が最も重視していた情報源である。

中期経営計画には、その企業が5年後・10年後に何を成し遂げたいかが、企業自身の言葉で明記されている。 志望動機の材料として、これ以上のものはない。

なぜこれが③の証明になるのか。採用は投資であり、企業は「活躍する素養があること」に加えて「簡単には辞めない人材」を獲得する必要がある。そして、辞めない根拠として最も説得力があるのは、中長期の時間軸で、自分の思いと会社の方向性が一致していることである。方向が同じであれば、進むうちに齟齬が生じにくい。

具体的な使い方はこうなる。

「中期経営計画を拝見したところ、御社はITを通じて顧客のビジネスモデル自体を変革することを目指しておられると理解しました。私は、ITの専門性をもって顧客のビジネス価値を最大化したいと考えています。私が目指す方向と御社が目指す方向は一致しているため、志望しました」

この構文は、自分のキャリアの方向性(=就活の軸)を事前に定めておけば、あとはIR資料を読んでどちらへ進もうとしているかを調べるだけで成立する。軸さえ固まっていれば、企業ごとの作業は「IRを読む」だけになる。

そして、この方法は転職活動にもそのまま流用できた。企業の方向性と自分の方向性の一致を示す、という論理構造は、新卒か中途かによらず有効である。

「調べなくていいもの」の具体例

原則の裏返しとして、私が調べなかったものも挙げておく。

  • 創業の経緯、社史 — ③の証明に使える場合もあるが、稀である
  • 社長の個人的な経歴 — 3点セットのどれにも紐づかない
  • 福利厚生、勤務地、休日数 — 自分にとっては重要だが、面接で語れば③の証明を弱める(条件で選んでいることになる)
  • 口コミサイトの内容 — 志望先を選ぶ材料にはなるが、面接では使えない
  • 暗記対象としての企業情報全般 — 拠点数や従業員数を暗記しても、報告文に載らない

特に最後の点は強調しておきたい。企業のホームページを暗記するような努力は、評価軸の外側にある。 覚えていることを示す機会が、そもそも面接に存在しない。

調べた情報のうち、どれくらいを面接で使ったか

「調べたうち、実際に面接で使った情報はどれくらいか」という問いにも答えておく。

これについては、正直に書く。私は当時、使用率を記録していないので、定量的には答えられない。

ただし、感覚として言えることが一つある。上記の原則に従って調べていたので、調べた情報のほとんどは使い道が最初から決まっていた。 使い道を決めてから調べていたので、「調べたが使わなかった」という無駄が発生しにくい設計になっていた。

逆に言えば、使用率が低い人は、調べてから使い道を考えているのだと思う。順序が逆になっている。「これは3点セットのどれに使うのか」を先に決めてから、その情報を取りに行く。 そうすれば、使用率は構造的に高くなる。

(この点については、実際にどの程度使い残しがあったのか、当時の記録が残っていれば補足したい。読者にとっては「どのくらい調べれば足りるのか」の目安になるはずである。)

実行手順

手順1: 就活の軸を先に固める 企業分析より先である。軸がないと、企業の特徴を長所・短所に変換できない。

手順2: 業界のビジネスモデルを理解する 収益構造がどうなっているか。誰が誰に何を売って、どこで利益が出ているか。これが①の土台になる。

手順3: 業界の10年スケールの変化を掴む 業界の変遷に関する書籍を1冊読む。深追いしない。

手順4: 志望企業の中期経営計画を読む 5年後・10年後にどこへ行こうとしているかを抜き出す。自分の軸との接点を1〜2点、文章にする。これが③の骨格になる。

手順5: 同業他社2〜3社の特徴を一覧化する 比較の論理を作るため。全社を深く調べる必要はない。志望企業との差分が分かれば足りる。

手順6: 3点セットが書けるか確認する。書けたら終了 これが終了条件である。書けないなら、書けない項目に対応する情報だけを追加で取りに行く。

注意点

第一に、この線引きは「内定するための企業分析」の線引きである。 「自分がこの会社で働いて幸せか」を判断するための企業分析は、これとは別物であり、口コミサイトも福利厚生も勤務地も見るべきである。内定の最大化と、入社後の満足の最大化は、必要な情報が違う。 両方やるべきだが、混ぜないほうがよい。

第二に、IR資料は上場企業にしか存在しない。 非上場企業や中小企業を志望する場合、中期経営計画に相当する情報は公開されていないことが多い。その場合は、代替として社長インタビュー記事、採用サイトの事業戦略パート、あるいは説明会や逆質問で直接聞くことになる。逆質問で「今後5年で御社が最も力を入れる領域はどこですか」と聞けば、同等の情報が得られる。

第三に、調べた情報を「知っていること」として提示しても価値は薄い。 IR資料を読んだこと自体が③の証明になるのは事実だが、それは「読みました」と言うことによってではなく、読んだ内容から自分の仮説を組み立てて提示することによって示される。情報は、加工して初めて材料になる。


この記事を読む前と、読んだあと

読む前のあなた 企業分析に終わりがなかった。いくら読んでも「まだ足りない気がする」が消えなかった。

読んだあとのあなた 使い道から逆算して、調べる範囲を自分で確定できる。 3点セットが書けたら、そこで終わりだと判断できる。

明日からやること

  • やめる: 使い道を決めずに情報を集めること
  • 始める: 調べる前に「これは3点セットのどれに使うのか」を宣言すること。答えられない情報は、調べなくていい
前の記事熱量は、結局論理から生まれる