「強みは一つに絞れ」という助言は、前提を取り違えている
自己PRの準備でよく言われるのが、「自分の強みを一つに絞って、それを全社で一貫して語れ」という助言である。一貫性が大事だから、というのがその理由になっている。
私はこの助言に従っていない。強みは、応募先によって変えていた。 ただし、企業ごとに変えていたわけではない。変える単位は職種・業界である。
そして、なぜ変えるのかには明確な理由がある。強みとは自分の中にある固定の属性ではなく、②御社で活躍できる素養の証明として提出する材料だからである。 証明すべき命題が変われば、提出する材料も変わる。当然のことである。
ESを書く前に、必ず3つを洗い出していた
私は、ESに手を付ける前に、志望企業・志望職種について必ず次の3点を書き出していた。
- ①御社の業務 — その職種の人は、日々何をしているのか
- ②御社で活躍できる素養 — ①を踏まえたとき、成果を出す人は何を持っているのか
- ③御社を辞めない理由 — 自分の中長期の方向性と、会社の方向性がどう一致しているのか
この3点が、面接における全アピールポイントである。そして、ESはこの3点を面接で話すためのトークテーマ設定資料として提出する。
順序が重要である。ESを書いてから面接で話す内容を決めるのではない。面接で話す内容を決めてから、それに誘導するためのESを書く。
この設計に従えば、自己PRの位置づけは自動的に決まる。
自己PRは、②御社で活躍できる素養を証明するための材料である。
②は志望職種によって変わる。したがって、自己PRの強みも志望職種によって変わる。ここに例外はない。
なぜ「企業ごと」ではなく「職種ごと」なのか
強みを変える単位は、企業ではなく職種・業界である。理由は、②を決めているのが企業ではなく業務の性質だからである。
たとえば、法人営業という職種を考える。
商談のアポイントが取れても、成約に至る確率は決して高くない。したがって、成果を出すには試行回数を増やすことが必要になる。だから、優秀な人は例外なく失敗を怖がらない。
この構造は、A社の法人営業でもB社の法人営業でも、ほとんど変わらない。業務の性質が同じなら、活躍する人の素養も同じになる。
だから、同じ職種を複数社受けるなら、②はそのまま使い回せる。私は実際にそうしていた。SIerのプロジェクトマネージャー志望であれば、どの会社に対しても「ステークホルダー間の合意形成」という素養を軸にしていた。
一方、業界をまたぐと②は変わる。同じ「顧客のビジネスを支援する」仕事でも、ITと金融では価値の届け方が違うので、求められる素養が変わる。ここは作り直しになる。
実務上の判断基準はこうなる。
- 職種も業界も同じ → ②は使い回す。自己PRもほぼ共通で問題ない
- 職種が同じで業界が違う → ②の骨格は使えることが多いが、業務の性質の差分を点検して微調整する
- 職種が違う → ②を作り直す。自己PRも作り直す
「そこは塩梅」という言い方になるが、判断の軸は明確である。業務の性質が変われば②が変わり、②が変われば自己PRが変わる。 判断に迷ったら、①御社の業務を並べて比較すればよい。
②の定義は、自分で考えずに取りに行く
ここが実務上の最大の急所である。
②御社で活躍できる素養を、自分の想像で決めてはいけない。想像で決めると、業界のイメージに引きずられた凡庸な答え(「コミュニケーション能力」「行動力」「主体性」)になる。そして凡庸な答えは、どの職種にも当てはまるので、どの職種の合格理由にもならない。
最も確実な方法は、現場の社員に聞くことである。
会社説明会、座談会、OB訪問、あるいは一次面接の逆質問で、こう聞く。
「◯◯様が、社内で一番優秀だと感じる方は、どのような特徴をお持ちですか」
この質問で得られるのは、業務の性質を踏まえた優秀さの定義である。しかも、実際にその業務を見ている人の観測に基づいている。
先ほどの法人営業の例(アポが取れても成約率は低い、だから試行回数、だから失敗を怖がらない)は、この質問から得られる典型的な回答である。この一言があれば、②は「失敗を恐れず試行回数を積める」に確定する。
自己PRの品質は、文章力ではなく、②の定義の正確さで決まる。 そして②の定義の正確さは、自分の想像力ではなく、情報収集の量で決まる。
決めた強みを、実際の文章に落とす
②が決まったら、自己PRは次の構造で書ける。
- 結論 … 私の強みは〈②を自分の言葉に翻訳したもの〉です
- 根拠 … 〈その素養が最も濃く出ている経験〉
- 判断 … 〈そのとき、なぜそう判断したのか〉
- 接続 … 〈だから御社の◯◯という業務で成果を出せる〉
法人営業の例で書くと、こうなる。
私の強みは、失敗を前提に置いて、行動量を落とさずに走り続けられることです。学生時代、サークルの新規イベント企画を担当した際、最初の3回はほとんど集客できませんでした。ただ、集客が難しいのは想定内で、問題は「どの告知経路が効いていないか」が分からないことだと考えました。そこで、告知経路を4つに分けて、回ごとに一つずつ変えながら試行を重ねました。失敗そのものを避けるのではなく、失敗から得られる情報を増やす方向に設計を変えた結果、5回目以降は安定して集客できるようになりました。御社の法人営業でも、成約率よりも試行回数と学習速度が成果を左右すると伺っています。この点で貢献できると考えています。
最後の一文が、②との接続である。この一文があることで、面接官の報告文が完成する。
「当社の営業では試行回数が成果を左右するが、本人はその点を理解したうえで、学生時代に失敗を情報源として設計し直した経験を挙げていた」
この方法への典型的な反論と、それへの回答
反論1: 「それは自分を偽っているのではないか」
強みを応募先によって変えるというのは、嘘をついていることにならないか。
なっていない、というのが私の立場である。 理由は、変えているのが「どの強みを提出するか」であって、「持っていない強みを主張すること」ではないからだ。
人間は複数の性質を持っている。合意形成が得意な面もあれば、失敗を恐れない面もある。そのうちどれを前面に出すかを、相手の必要に合わせて選んでいるだけである。 これは面接に限らず、あらゆるコミュニケーションで行われている編集作業である。
境界線は明確である。持っている性質の中から選ぶのは編集であり、持っていない性質を主張するのは捏造である。 前者はやってよく、後者はやってはいけない。後者をやると、深掘りで必ず崩れる。裏づけとなる経験が存在しないからである。
反論2: 「一貫性がなくなるのではないか」
一貫性は必要である。ただし、一貫性が必要なのは「全社を通じて」ではなく「一社の中で」である。
同じ会社の中で、ESと一次面接と最終面接で違う強みを語れば、それは矛盾になる。だがA社に対して合意形成を語り、B社に対して行動量を語ることは、A社の面接官からもB社の面接官からも観測されない。一貫性が問われる単位は、面接官が観測できる範囲までである。
そして、一社の中での一貫性は、この設計をとることでむしろ強固になる。②が先に固まっているので、ESも自己PRもガクチカも志望動機も、すべて同じ一点に向かうからである。
反論3: 「志望先が多いと作業量が膨大になる」
これは事実である。ただし、実際にやってみると、想像より作業量は少ない。職種単位で使い回せるからである。
私の場合、志望していたのはSIerが中心で、面接練習として金融業界も受けていた。②を作ったのは、実質2パターン程度である。20社受けても、②を20個作る必要はない。
むしろ作業量が膨れるのは、企業ごとに志望動機(③)を作る部分である。こちらは企業固有の情報(強み、理念、中期経営計画)が必要になるので、使い回しが効きにくい。強みは職種単位で使い回し、志望動機は企業単位で作る。 これが作業配分の基本形である。
この方法の限界
第一に、志望職種が決まっていないと動かない。 ①御社の業務が空白では、②を定義できない。自己PRが書けないと悩んでいる人の多くは、実は志望職種が決まっていない。作業の順序としては、職種の解像度を上げるほうが先である。
第二に、②の定義を誤ると、自己PR全体が誤った方向に最適化される。 自分の想像ではなく現場社員の言葉を取りに行くべきなのは、このためである。
第三に、これは内定を目的関数に置いた場合の最適化である。 「自分が本当に得意なことは何か」「自分に向いている仕事は何か」という問いは、これとは別に持っておくべきだと私は考えている。②に自分を寄せる技術は強力だが、寄せた先が自分にとって快適な環境である保証はない。内定の最大化と、入社後の満足の最大化は、同じ答えを出すとは限らない。
この記事を読む前と、読んだあと
読む前のあなた 「強みは一つに絞れ」と言われて、どれを選べばいいか決められなかった。どれを選んでも、他社では違う気がしていた。
読んだあとのあなた 強みは職種・業界単位で変えてよいと分かっている。選ぶ基準(②御社で活躍できる素養)も手元にある。
明日からやること
- やめる: 全社共通の「自分の強み」を1つに決めようとすること
- 始める: 志望職種の業務を動詞で分解し、そこで難しいことを乗り越える人が持っているものを、一語で定義すること