「あなたを漢字一文字で表すと」のような設問が来ると、何を答えればいいのか分からない。
定番の設問ならまだいい。変化球が来た瞬間に、一から考え直すことになる。設問の数だけ、考える作業が発生している。
この記事では、その作業を終わらせる。ESの設問は、形式が何種類あろうと、検査している項目は3つしかない。
設問の種類は無限にあるが、検査項目は3つしかない
ESの設問文は、企業ごとに驚くほど多様である。「学生時代に最も力を入れたこと」のような定番から、「あなたを漢字一文字で表すと」「これまでで最も理不尽だと感じた経験」といった変化球まで、形式は無数にある。
だが、検査されている項目は3つしかない。
- ①御社の業務(当社が何をする会社・職種かを理解しているか)
- ②御社で活躍できる素養(当社の業務で成果を出す資質を持っているか)
- ③御社を辞めない理由(回収前に離脱しない人物か)
これは、採用が投資であることから導かれる。投資判断に必要な情報は「成果が出るか」と「回収前に離脱しないか」の2つであり、前者を判定するには業務理解(①)と素養(②)が必要になる。この3項目の外側にある情報は、企業にとって意思決定に使えない。 使えない情報を集めるための設問を作る合理的な理由がない以上、すべての設問はこの3つのどれかに還元される。
したがって、設問文を読んだときにやるべきことは一つである。
この設問は、①②③のどれを検査しているのか。
これが判定できれば、何を書くべきかは自動的に決まる。逆に、判定せずに書き始めると、設問が求めていない情報を書いてしまい、「質問に答えていない」という評価になる。
具体例1: 「学生時代に最も力を入れたことを教えてください」
検査しているもの: ②御社で活躍できる素養
これは最も分かりやすい設問である。過去の行動から、この人物が持っている資質を推定しようとしている。
ただし、注意点が一つある。「力を入れたこと」を聞いているのに、実際に見られているのは「力を入れた対象」ではない。 サッカーでも研究でもアルバイトでも、活動の種類そのものは評価対象ではない。見られているのは、その活動の中で回した思考プロセスと、その再現性である。
したがって、書くべき内容は活動の紹介ではなく、次の骨格になる。
結論 → 前提 → 目標設定 → 現状分析 → 課題特定 → 解決策 → 結果
そして、この骨格に乗せる素養は、志望職種の②に合わせて選ぶ。同じサークル活動でも、合意形成を示したいのか、試行回数を示したいのかで、切り取る場面が変わる。
派生形も同じ検査項目
- 「これまでで最大の挑戦は何ですか」
- 「困難を乗り越えた経験を教えてください」
- 「チームで成果を出した経験を教えてください」
これらはすべて②の検査である。「チームで」と限定されている場合は、②のうち対人・協働に関する素養を狙って聞いているので、そこに寄せた場面を選ぶ。
具体例2: 「当社を志望する理由を教えてください」
検査しているもの: ③御社を辞めない理由(および①御社の業務)
志望動機の設問は、熱意を測っているように見えるが、実際に測られているのは離脱可能性である。
企業が知りたいのは「この人物は当社で働き続けるか」であり、それを判定する材料は「この人物の中長期の方向性と、当社の方向性が一致しているか」である。一致していれば、辞める理由が生じにくい。一致していなければ、いずれ齟齬が表面化する。
したがって、志望動機に書くべきは、次の推論の連鎖である。
- 自己分析で判明した自分の性質
- → 成し遂げたいこと
- → 他社と比較した結果、それを成し遂げる環境として御社が最も適している
この連鎖が破綻なく通っていれば、熱量は自動的に伝わる。逆に、感情の強度をどれだけ上げても、連鎖が通っていなければ熱量として認識されない。
なお、この設問は同時に①御社の業務も検査している。「御社が最も適している」と言うためには、御社が何をしている会社かを理解している必要があるからである。理念やパンフレットの言葉をなぞっただけの志望動機が弱いのは、①の証明になっていないためである。
派生形
- 「入社後にやりたいことを教えてください」→ ①と③
- 「10年後、どのようなキャリアを描いていますか」→ ③(時間軸が長いほど③の比重が上がる)
- 「同業他社ではなく当社である理由は」→ ③(比較の論理を明示的に要求している)
具体例3: 「あなたの人生における転機を教えてください」「自分を一言で表すと」
検査しているもの: ③御社を辞めない理由
ここが本記事の中心である。
企業によっては、業務とも志望動機とも直接関係のない、いわゆる自己分析系の設問を課すことがある。人生年表を書かせる、価値観の形成過程を書かせる、モチベーショングラフを提出させる、といった形式もある。
一見すると、これは受験者の人柄を知るための設問に見える。だが私は、これは③の検査であると考えている。 理由は2段階ある。
理由の第一段: 言語化コストが、熱量の代理指標になる
自己分析は、時間がかかる作業である。自分の人生を振り返り、そこから一貫した価値観を抽出し、言語化する。これは他のどの設問より重い作業である。
そして、重い作業であることを企業側も分かっている。分かったうえで課している。
とすると、この設問には次の機能がある。
その作業をやってまで当社に来ようとする熱量があるか、を測る。
作業量そのものが選別装置になっている。志望度の低い受験者は、この設問の前で脱落するか、明らかに手を抜いた回答を出す。手を抜いたかどうかは、読めば分かる。 抽象度が高く、誰にでも当てはまる内容になるからである。
これは、逆質問で中期経営計画に触れることが③の証明になるのと同じ構造である。準備にかかるコストが観測可能なとき、そのコストの支払い意思が志望度の証明として機能する。
理由の第二段: 自己理解と職務適性の整合性を検証する
より本質的なのはこちらである。
自己分析系の設問に答えると、その人物が「何をしたい人間か」が明示される。企業はそれを読んで、次を判定する。
正しい自己理解を持ったうえで、なお当社の業務に魅力を感じているのか。
ここで、原典にあった例を使う。
自ら事業を作りたいと考えている人間にとって、コンサルタントとしてクライアントの意思決定を支援する職業は、論理的に適していない。
これは重要な例なので、丁寧に見る。
コンサルタントの仕事は、クライアントの意思決定を支援することである。最終的な意思決定権はクライアントにあり、実行の主体もクライアントである。自分で事業を立ち上げ、自分で意思決定し、自分で結果を負いたい人間にとって、この構造は本質的な不満の源泉になる。
したがって、自己分析で「自ら事業を作りたい」と書いた人物がコンサルティングファームを志望している場合、企業側は次のように判断できる。
- 本人は自己理解と職務内容の不整合に気づいていない → 入社後に気づいて辞める可能性が高い
- 本人は気づいているが、それでも志望している → その理由(例: 事業を作る前に問題解決の型を身につけたい)が説明されていれば整合する
つまり、自己分析系の設問は、受験者の自己理解を引き出したうえで、それと職務内容の論理的整合性を検証する装置になっている。 整合していれば、辞めない根拠になる。整合していなければ、離脱リスクの根拠になる。
これが、自己分析系の設問が③の検査だと私が考える理由である。
この理解が、書き方を変える
自己分析系の設問を③の検査だと理解すると、書き方が変わる。
悪い書き方: 自分の人生を正直に、詳細に書く。感動的なエピソードを盛り込む。 良い書き方: 自分の性質を言語化し、それが志望職種と論理的に整合することが読み取れるように書く。
たとえばコンサルティングファームに出す自己分析系ESであれば、「他人の意思決定を助けることに喜びを感じてきた」「答えのない問いに向き合い続けることが苦にならない」といった性質を、実際の経験から抽出して書く。そのうえで、志望動機と接続する。
自己分析は、自分を知るために行うのではなく、③を証明する材料を作るために行う。 少なくとも、ESに書く自己分析はそうである。
設問の検査項目を判定する手順
以上を一般化すると、次の手順になる。
手順1: 設問文の時制を見る - 過去を問う設問(何をしたか、どう乗り越えたか)→ ②の検査である可能性が高い - 未来を問う設問(何をしたいか、どうなりたいか)→ ③の検査である可能性が高い - 現在を問う設問(あなたはどういう人か、価値観は何か)→ ③の検査である可能性が高い
手順2: 設問文に会社が登場するかを見る - 「当社で」「弊社の」が入っていれば、①の検査が含まれている - 入っていなければ、②か③に絞られる
手順3: 判定した項目に対応する材料を配置する - ② → ガクチカ・自己PRの素材から、職種の②に合う場面を選ぶ - ③ → 就活の軸と、企業の中期経営計画の方向性の一致を示す - ① → 業務理解を示す記述を入れる
手順4: 「この回答で、面接官は何を報告文に書けるか」を確認する 書けるものが判定した検査項目と一致していなければ、設問を読み違えている。
注意点
第一に、この還元は「究極的には」という留保つきである。 実務上は、一つの設問が複数の項目を同時に検査していることが多い。「入社後にやりたいこと」は①と③の両方を測っている。判定は排他的に行うのではなく、「主にどれか」「副次的にどれか」で捉えるほうが正確である。
第二に、変化球の設問(漢字一文字、自分を動物に例えると等)については、私は明確な検査項目を特定できていない。 私の推測では、これらは②か③の検査を、記述の自由度を上げることで別角度から行っているものだと考えている。ただしこれは仮説であり、検証はできていない。実務的な対処としては、変化球の設問に全力を投じないことを勧める。配点の読めない設問に資源を投下するより、確実に②③を検査している設問の精度を上げるほうが期待値が高い。
第三に、ESそのものの位置づけを見誤らないこと。 書類選考の段階では、ESの本文はほとんど精読されていない。ESは書類通過を勝ち取るための文書ではなく、面接で話すテーマを自分で設計するための提出資料である。設問の検査項目を読み取る作業は、書類を通すためではなく、面接での会話を設計するために行っている。
この記事を読む前と、読んだあと
読む前のあなた 設問ごとに、何を書くべきかを一から考え直していた。変化球が来ると手が止まっていた。
読んだあとのあなた どんな設問でも、3点セットのどれを検査しているかを判定できる。判定できれば、書くべき内容は自動的に決まる。
明日からやること
- やめる: 設問ごとに一から考えること
- 始める: 設問文の時制(過去/現在/未来)と、会社が主語に入っているかで、検査項目を判定すること