「違い」を考える前に、「共通の目的」を確定させる
ガクチカと自己PRの違いは何か、という問いは、就活の準備でほぼ必ず出てくる。そして多くの解説が、「ガクチカは経験を、自己PRは人柄を伝えるもの」といった説明をする。
私は、この問いの立て方自体が回答を難しくしていると考えている。違いを先に考えると、2つを別々のものとして設計してしまうからである。
先に確定させるべきなのは、共通の目的のほうである。
ガクチカも自己PRも、②御社で活躍できる素養を証明するための材料である。
的は一つしかない。ガクチカ用の的と自己PR用の的が別々にあるわけではない。同じ的に向かって、2発撃つ。 そのうえで、2発の弾の性質が違うので、撃ち方を変える。これが正確な理解である。
なぜ的が一つなのかは、面接官の立場から導ける。面接官が組織に報告するのは「この人物は当社で活躍する可能性が高い」という一点である。ガクチカと自己PRが別々の目的を持っていると、報告文が2本立てになり、どちらも中途半端になる。面接官の報告文が一本にまとまるように材料を渡すのが、受験者側の設計としては正しい。
2つの素材特性の違い
的が同じでも、素材の性質は違う。私は次のように整理している。
ガクチカ: 結果ベース、自由度が低い
ガクチカは「学生時代に力を入れたこと」であり、具体的な活動と、その結果を語ることが構造的に要求される。
- 何に取り組んだか(活動)
- どういう状況だったか(前提)
- 何を目指したか(目標)
- 何をしたか(行動)
- どうなったか(結果)
この骨格から外れることができない。結果を語らないガクチカは、質問に答えていないことになる。自由度が低いということは、逆に言えば、聞き手にとって評価しやすいということでもある。 結果という共通の物差しがあるので、比較検討がしやすい。
自己PR: 結果に縛られない、自由度が高い
自己PRは「あなたの強みを教えてください」であり、強みという抽象的な性質を主張することが本体である。 経験は根拠として添えるが、結果を語ることは必須ではない。
- どういう強みか(性質)
- なぜそう言えるか(根拠となる場面)
結果が伴っていない場面でも、素養の証明として使える。たとえば「対立が起きたときに、まず双方の目的を切り分けて考える」という思考の癖は、それ自体が結果を持たない。だがガクチカでは語りにくいこの種の素材が、自己PRでは使える。
自由度が高いということは、素材選択の幅が広いということである。 ガクチカで拾えなかった場面を、ここで拾える。
2つの運用パターン
素材特性が違うので、2発の弾の使い方には2通りの設計がある。
パターンA: 同一素養を補強する(Aをガクチカと自己PRの両方で証明)
証明したい素養が一つに定まっており、それが職種にとって決定的である場合に採る。
例: SIerのプロジェクトマネージャー志望、②=ステークホルダー間の合意形成
- ガクチカ: サークル代表として部署間の方針対立を調整し、全員が納得する形で決着させ、結果として活動を継続できた(結果ベース)
- 自己PR: 対立が起きたとき、どちらかを説得するのではなく、双方の主張の背後にある目的を切り分けて両立点を探す思考をとる(思考の癖として)
この設計の利点は、証明の強度が上がることである。 面接官から見れば、同じ素養が2つの独立した角度から裏づけられている。一つの経験だけだと「たまたまその場でうまくいっただけではないか」という疑いが残るが、行動の結果(ガクチカ)と思考の癖(自己PR)の両方から示されると、再現性の証明になる。
再現性こそが、面接官の報告文に必要なものである。「たまたま成功した」は報告できないが、「同じ状況で同じ判断ができる」は報告できる。
この設計の欠点は、示せる素養が一つに限られることである。 職種が求める素養が複数ある場合、取りこぼしが出る。
パターンB: 異なる素養を分担する(Aをガクチカ、Bを自己PRで証明)
職種が求める素養が複数あり、そのすべてが重要である場合に採る。
例: 法人営業志望、②=①失敗を恐れず試行回数を積める ②顧客の課題を掘り下げられる
- ガクチカ: サークルの新規イベントで、集客の失敗を繰り返しながら告知経路を検証し続け、最終的に安定集客を実現した(=試行回数)
- 自己PR: 相手が言っていることをそのまま受け取らず、なぜそれを求めているのかまで確認してから動く(=課題の掘り下げ)
この設計の利点は、カバー範囲が広がることである。 職種の要件を複数満たしていることを示せる。
この設計の欠点は、それぞれの証明が薄くなることである。 一つの素養につき一つの根拠しかないので、深掘りされたときの耐久力が落ちる。
どちらを選ぶかの判断基準
私が使っていた判断基準は、次の3点である。
基準1: ②が単一か複数か
現場社員から聞き出した「優秀な人の特徴」が、明確に一点に集約されているならパターンA。複数の要素が並列で挙げられたならパターンBを検討する。
前述の法人営業の例で「優秀な人は例外なく失敗を怖がらない」という回答が返ってきた場合、これは明確に一点なのでパターンAが有効である。
基準2: ガクチカだけで証明しきれるか
ガクチカのエピソードが、その素養を十分に示せているかを自己点検する。
「この話を聞いた面接官は、この素養があると確信するか、それとも半信半疑か」 を判定する。半信半疑なら、自己PRで補強すべきである(パターンA)。既に十分なら、自己PRは別の素養に回せる(パターンB)。
基準3: 素材の在庫があるか
パターンBを採るには、異なる素養を示せる別の経験が必要である。在庫がないのに無理にBを採ると、根拠の弱い自己PRができあがる。
在庫がなければ、素直にパターンAを採るべきである。 一つの素養を強く証明するほうが、二つの素養を弱く証明するより、面接官の報告文は書きやすい。
迷ったらパターンA
判断に迷う場合、私はパターンAを推奨する。理由は、面接官の報告文が一行で済むからである。
パターンBの報告文は、こうなる。
「試行回数を積める点と、顧客課題を掘り下げられる点の2つを備えていると判断した」
パターンAの報告文は、こうなる。
「合意形成の能力について、行動実績と思考特性の両面から確認でき、再現性が高いと判断した」
後者のほうが、上長に対する説得力が強い。複数の項目を並べるより、一つの項目を深く立証するほうが、意思決定を後押しする。
「面接官はそれぞれから何を得ようとしているのか」
この問いに、直接答えておく。
面接官が最終的に得たいものは、どちらからも同じである。②御社で活躍できる素養の証明である。ただし、取り出し方が異なる。
ガクチカから取り出そうとしているもの - 目標を設定し、課題を特定し、打ち手を選び、結果に至る一連の思考プロセスが回せるか - そのプロセスに再現性があるか(=場面が変わっても同じことができるか) - 結果を自分で定義できるか(特に、派手な実績がない素材の場合)
自己PRから取り出そうとしているもの - 自分がどういう性質を持っているか、自分で把握できているか(自己理解) - その性質が、当社の業務と噛み合っているか(職務適性) - 主張と根拠が整合しているか(論理性)
共通して見ているのは、「この人物を採用したとき、当社の業務で成果が出るか」という一点である。 取り出す角度が違うだけで、測っているものは同じである。
実務上の注意点
第一に、ガクチカと自己PRで、まったく無関係な素養を語ってはいけない。 パターンBを採る場合でも、2つの素養はどちらも同じ職種の要件に紐づいている必要がある。「合意形成が得意」と「体力に自信がある」を並べても、面接官の報告文は一本にまとまらない。
第二に、自己PRの自由度の高さは、諸刃の剣である。 結果に縛られないぶん、「主張だけで根拠が薄い」文章になりやすい。自由度が高いからこそ、根拠となる場面の具体性を意識的に上げる必要がある。
第三に、エピソードの使い回しは可能だが、切り取る場面を変えるべきである。 同じサークル活動から、ガクチカでは「部署間対立を調整して活動を継続させた」という結果を、自己PRでは「対立時に目的を切り分けて考える」という思考の癖を取り出す、というように、同じ出来事の別の側面を使う。 まったく同じ場面を2回話すと、面接官は素材の乏しさを感じ取る。
第四に、この設計はESの提出前に完了させておく必要がある。 ガクチカと自己PRは、面接で話す内容を規定するトークテーマ設定資料である。提出後に方針を変えると、ESと面接の発言が食い違い、一貫性の欠如として読まれる。
この記事を読む前と、読んだあと
読む前のあなた ガクチカと自己PRの書き分けに悩んでいた。書いてみると、結局どちらも同じ話になっていた。
読んだあとのあなた 2つが同じ的(②御社で活躍できる素養)を撃つ2発だと分かっている。同じ素養を補強するか、別の素養を分担させるかを、基準を持って選べる。
明日からやること
- やめる: 「違うことを書かなければ」と考えること
- 始める: 自分の②が単一か複数かを判定し、パターンA(補強)とパターンB(分担)のどちらを採るかを決めること