「熱意が足りない」と言われても、どうすればいいのか分からない。
人柄は変えられない。熱意は、湧かないときには湧かない。第一志望に落ちた理由が「熱意不足」だとすれば、次に何をすればいいのか。対処のしようがないもので評価されている、という感覚だけが残る。
この記事の結論を先に置く。評価されているのは人柄でも熱意でもない。論理構造である。 そしてそれは、あなたが自分で操作できる変数である。
「人柄」と「熱意」という通説
就職活動の場で最もよく語られる評価軸は、「人柄」と「熱意」である。面接は人と人が向き合う場だから、最後は人柄で決まる。志望度が高い学生は熱意が伝わるから通る。多くの就活生がこの説明を信じているし、企業側の広報も概ねこの語彙で語る。
しかしこの説明には、受験者にとって致命的な欠陥がある。対処のしようがないのだ。人柄は変えられない。熱意は湧かないときには湧かない。志望度の高い企業に落ちた学生に対して「熱意が足りなかった」と説明することは、何も説明していないに等しい。
私は、この説明が事実として誤っていると考えている。そう確信するに至った出来事があるからである。
結論:評価されているのは論理構造である
先に私の答えを書く。
面接官が最も気にしているのは、受験者が論理的であるか否かである。志望度・業界知識・人柄・熱意といった要素は、それ自体が独立した評価軸なのではない。それらは、論理の材料として提示されたときにだけ、評価に変換される。
言い方を変えると、こうなる。面接官が測っているのは「この受験者について、自分が組織に説明できる合格理由を組み立てられるか」であり、その組み立てが可能かどうかは、受験者の発言が論理として成立しているかだけで決まる。
そして、この構造は業界に依存しない。日本語の論理構造は、IT業界でも金融業界でも違わないからである。
確信した出来事:意図せず対照実験になっていた金融業界
私はIT業界で働きたいという気持ちがあり、SIerを中心に選考を受けていた。その傍らで、面接練習として金融業界も受験していた。
当然ながら、金融の知見はなかった。志望度も低かった。だから事前準備にはほとんど時間を割いていない。IT業界の企業に対しては、業務内容を調べ、IR資料を読み、逆質問を設計し、と手間をかけていたが、金融業界に対しては同じことをしていなかった。
私が唯一守ったのは、原則だけである。「自分を採用することが御社にとってプラスになることを説明する」という原則である。具体的には、IT企業向けに準備していたロジックの一部を金融業界向けに差し替えて、面接に臨んだ。
結果として、金融業界でも面接は全通した。
後から振り返ると、これは意図せず対照実験の形になっていた。何を固定し、何を動かしたのかを整理すると、こうなる。
- 固定したもの … 論理構造そのもの/「採用が御社にとってプラスであることを説明する」という原則/話し手である私自身/ガクチカの素材
- 差し替えたもの … 業界固有の根拠部分だけ
- 落としたもの … 志望度/業界知識/準備時間
もし面接官が志望度や業界知識や熱意を主たる評価軸にしているのなら、この条件で通るはずがない。落としたものが、まさにその3つだからである。それでも通ったという事実は、評価の重みがほぼ全て論理構造の側に乗っていることを示している。
念のため限界を書いておく。これは私一人の、限られた社数の経験であり、統制の取れた実験ではない。金融業界の面接官がたまたま寛容だった可能性も、SIer向けに作り込んだロジックが偶然その業界にも適合していた可能性も、排除できない。私が事実として言えるのは、「私の場合はこの理解で全通した」というところまでである。
ロジックの階層構造:何を固定し、何を差し替えたのか
では、具体的に何をどう差し替えたのか。当時私が使っていた志望動機の骨格は、次の連鎖だった。
顧客のビジネスをサポートする業界で働きたい
→ その中でも〔業界名〕が最も適していると考える
→ なぜなら、その業界の価値貢献の仕方が、顧客のビジネスを最大化するうえで最も重要だからだ
→ 具体的には〔その業界固有の価値貢献の中身〕
一見すると4つの文が並んでいるだけに見えるが、この4文は同じ階層にいない。役割の異なる4つの層である。分解すると、こうなる。
第1層:自分の側の命題(業界横断で固定)
「顧客のビジネスをサポートする業界で働きたい」。
これは自分の就活の軸であり、世界の側の事実を一切含んでいない。業界名も企業名も出てこない。だから、どの業界を受けても一文字も変える必要がない。
第2層:選択の宣言(業界名を代入するだけ)
「その中でも〔業界名〕が最も適していると考える」。
ここは変数の代入である。文の構造は変わらず、括弧の中身だけが入れ替わる。IT業界を受けるならIT業界、金融業界を受けるなら金融業界が入る。書き換えのコストはほぼゼロである。
第3層:選択基準(業界共通で固定)
「なぜなら、その業界の価値貢献の仕方が、顧客のビジネスを最大化するうえで最も重要だからだ」。
ここが最も誤解されやすい層である。これは業界を評価する「ものさし」を宣言している文であって、業界の説明ではない。ものさしは自分の側にあるものだから、業界が変わっても変わらない。
第4層:業界固有の事実(ここだけを差し替える)
「具体的には〔その業界固有の価値貢献の中身〕」。
第3層のものさしに、その業界を当てて出てきた値がここに入る。IT業界であれば、ITを通じて顧客のビジネスモデルそのものを変革できる、といった内容になる。金融業界であれば別の内容になる。差し替えたのは、実質的にここだけである。
図にするとこうなる
- 第1層: 自分の側の命題(固定)… 就活の軸。世界の側の事実を含まない
- 第2層: 選択の宣言(代入)… 業界名という変数を1つ入れるだけ
- 第3層: 選択基準=ものさし(固定)… 自分の側にある評価軸。業界に依存しない
- 第4層: 業界固有の事実(差し替え)… ものさしを当てた結果。ここだけが業界別
原典のメモで私が「結論は業界共通、根拠は業界別」と書いたのは、この構造のことである。上位3層は自分の側にあるから固定でき、最下層だけが世界の側にあるから差し替えを要する。業界を1つ増やすコストは、文章全体の4分の1以下しかかからない。
なぜこの分離が成立するのか
ポイントは、自分の側の命題と、世界の側の事実を、はっきり分離して書いていたことにある。
もし第3層に「なぜなら、ITは顧客の業務効率を劇的に改善できるからだ」と書いていたら、この文はIT業界専用になる。金融業界を受けるときには捨てるしかない。つまり、ものさしの中に業界名が混入した瞬間に、そのロジックは移植不能になる。
逆に、ものさしを業界名抜きで書いておけば、同じものさしを別の業界に当て直すだけで、新しい志望動機が1文で完成する。
これは公理6(抽象から具体を探す)の直接の帰結である。抽象を先に固定してあるからこそ、具体を入れ替えられる。具体的な経験や業界知識から積み上げていく作り方をしていたら、業界が変わるたびに全部を作り直すことになり、志望度の低い業界を練習として受ける余裕など生まれない。
面接官の側から見ると、同じ構造が報告書の骨格になっている
この4層構造は、そのまま面接官が組織に提出する報告の骨格として使える形をしている。
第1層と第3層は「この学生は顧客のビジネス支援という軸を持ち、その軸に照らして当業界を選んでいる」という一文に圧縮できる。第4層は「その根拠として当業界の◯◯を挙げていた」という一文になる。面接官は、こちらが話した順番のまま書き写せば報告が完成する。
私が業界を問わず通ったのは、この「書き写せる形」で話していたからだと考えている。
なぜ論理が唯一の通貨になるのか
ここからは、なぜそうなるのかの導出である。出発点は公理2に置く。
公理2: 面接官は「合格を出した理由」を組織に報告する義務を負っている。
これは、私が現職で採用活動に携わるなかで実際に見ている運用である。面接官に何が渡され、面接後に何を提出することが求められ、それが次の工程でどう使われるか。学生の頃は外から推測するしかなかったものを、いまは内側から見ている。面接官は、自分の判断を組織に対して説明しなければならない。 これは事実である。
留保を付けるとすれば、私が直接見ているのは自社の運用であり、他社の手続きの細部まで同一だと断言はできない、という点だけである。ただし、面接官が単独で最終決定権を持つ組織は稀であり、複数回の面接を経て合否が決まる以上、面接官の判断が何らかの形で言語化されて次工程に渡ることは、構造上ほぼ避けられない。
なお、この命題には対偶もある。私が落選したときは、いずれも論理的でなかったときである。 準備不足だったから落ちたのでも、相性が悪かったから落ちたのでもない。結論と根拠の接続がどこかで切れていたか、あるいは自分の発言によって面接官が組み立てていた論理を壊したか、そのどちらかだった。この点は、落選の記録を扱った記事で個別に確認している。
ここから、段階を追って導出する。
1. 面接官は決裁者ではなく、中間の伝達者である。 面接官が「気に入った」だけでは内定は出ない。その判断は人事部や上位者に渡り、次の工程へ引き継がれる。
2. 伝達は言語で行われる。しかも、その場に同席していない人間に対して行われる。 これが決定的な制約である。報告の受け手は、その面接を見ていない。
3. 同席していない人間に伝わる形式は、転写可能な形式に限られる。 受験者の表情、声のトーン、場の空気、「なんとなく良さそう」という感触。これらは面接官の頭の中には存在するが、報告文に転写できない。転写した瞬間に情報が失われるか、そもそも文字にならない。
4. 転写できるのは、命題と、命題を支える根拠だけである。すなわち論理である。 「彼は◯◯という軸を持ち、その軸に照らして当社を選んでいる。根拠は△△である」。この形式なら、面接を見ていない人間にも同じ理解が届く。
5. 「なんとなく良かった」は報告として成立しない。 上位者から「なぜ?」と返され、面接官は答えられない。面接官はこの往復を避けたい。優秀で忙しい社員ほど、そうである。
6. したがって面接官は、自分が報告文に書ける材料をくれた受験者を通す。 これが系1(面接とは、面接官に合格を出す理由を渡す時間である)の内実である。
7. 報告文に書ける材料の形式は、業界・企業・職種に依存しない。 金融業界の報告文だけが特殊な文法で書かれている、ということはない。命題と根拠という構造は、どの業界でも同じである。
8. ゆえに、論理は業界を超えて通用する唯一の通貨になる。
これが系2(唯一の通貨は論理)である。そして、この導出の途中に「志望度」も「業界知識」も「人柄」も出てこないことに注意してほしい。それらが評価に効くとすれば、それは論理の材料として第4層に入ったときだけである。
面接の構造は、そのまま仕事の構造である
もう一段、補足しておきたいことがある。
論理が評価されるのは、単に報告の都合が良いからだけではない。この「自分が説明し、上位者がそれを持ってさらに上位者に説明する」という伝言ゲームの構造は、面接の場に特有のものではなく、仕事そのものの構造だからである。
実際の仕事でも、自分が説明した内容を、上位者が伝言ゲーム形式でより上位の社員に説明することになる。だから自分の仕事は、上位者が説明するための根拠を用意してあげることになる。結論だけ聞けば当たり前のことでも、説明には理由が必要になる。その理由を用意するのが仕事である。
つまり、面接で論理的に説明できる受験者を通すことは、面接官にとって二重に合理的である。報告が書きやすいという短期的な都合と、この人物は入社後も同じことができそうだという公理1(採用は投資である)に沿った判断が、同じ行動を指している。
これが、論理性が業界を問わず最重要の評価軸になる理由だと私は考えている。
熱意は独立変数ではなく、論理の従属変数である
金融業界の件がもう一つ明らかにしたのは、「熱意」という言葉の正体である。
公理3を思い出したい。面接官が持つ判断材料は、①ES ②面接中に自分が発した言葉、の2つしかない。この2つ以外に、面接官への入力は存在しない。
すると、「熱意」という内心そのものは、原理的に面接官に入力されない。入力されるのは「熱意があるように見える言葉の並び」だけである。そして、その並びの正体は何かというと、志望理由が筋の通った形で構成されているかどうか、つまり論理である。
だから、熱量は結局のところ論理から生まれる。志望度が低かった私が金融業界で通ったのは、私が急に金融を好きになったからではなく、志望理由が論理として成立していたからである。
この理解には実用上の価値がある。「志望度が低いから落ちた」という説明は、多くの場合、誤りだからである。正しくは「志望理由を論理的に構成できなかったから落ちた」である。前者は感情の問題なので対処のしようがないが、後者は構造の問題なので対処できる。私が就職活動の中盤で手にしたのは、この言い換えだったと思っている。
倫理的な留保
ここまでの内容は、志望度が低い業界でも面接に通ることが可能である、と主張している。実際、私は面接練習のつもりで受けた金融業界の選考を通過した。
ただし、これは内定を目的関数に置いた場合の話である。入社後のミスマッチという別の論点は、まったく解消されていない。志望度が低いまま内定を得た先に、志望度が低いまま働く日々が待っている可能性は、当然ながらある。
私の場合、金融業界は面接の練習として受けており、内定を受諾する前提ではなかった。だからこの論点に直面せずに済んだ。しかし、この方法を使う人がその状況にあるとは限らない。この記事が扱っているのは「通す技術」であって、「どこに行くべきか」という問いには何も答えていない。この2つは分けて考える必要がある。
再現手順
この構造を自分で組むための手順を書く。
- 第1層を1文で書く。 自分の側の命題である。業界名・企業名を含めてはいけない。「顧客のビジネスをサポートする業界で働きたい」のような形になる。
- 第3層を1文で書く。 業界を選ぶときのものさしである。ここにも業界名を含めてはいけない。「その業界の価値貢献の仕方が、顧客のビジネスを最大化するうえで最も重要かどうか」のような形になる。
- 候補業界ごとに第4層だけを埋める表を作る。 縦に業界、横に「その業界固有の価値貢献の中身」の欄を1つ置く。埋める材料は、業界研究とIR資料から取る。
- 第2層は代入するだけである。 表から1行を選べば、志望動機が完成する。
チェック方法は簡単で、第1層と第3層の文に業界名・企業名・商品名が1つでも入っていたら、抽象化が足りていない。その文は移植できないので、書き直す。
この方法が効かない条件
正直に書いておくと、この方法には効かない条件がいくつかある。
第1層が本当に空である場合。 自分の軸が定まっていないと、上位3層が作れない。この場合は面接対策の前段の作業が必要になる。
第3層が第1層から導かれていない場合。 ものさしが軸と無関係だと、深掘りされたときに連鎖が切れる。「なぜそのものさしなのか」と聞かれて答えられなくなる。
第4層に入れる事実がない場合。 ここは重要なので強調しておきたい。私は金融業界の準備に「ほとんど時間を割いていなかった」と書いたが、これはゼロだったという意味ではない。第4層には、その業界固有の事実を入れる必要がある。志望度は不要でも、最小限の事実収集は不要ではない。この記事を「業界研究をしなくても通る」と読むのは誤読である。志望度と業界知識は別のものであり、不要なのは前者だけである。
転職でも同じだった
最後に一つ付け加えると、この理解は転職活動でもそのまま通用した。
理由は、公理2が新卒採用に固有のものではないからである。中途採用の面接官も、自分の判断を組織に説明する。説明の形式が論理である以上、受験者がやるべきことは変わらない。上位3層を自分の側で固定し、応募先ごとに最下層だけを差し替える。この作業の中身は、新卒のときと同じだった。
面接官は論理性しか見ていない。より正確に言えば、面接官は論理性しか見ることができない。表情も熱意も場の空気も、報告文には転写できないからである。
この記事を読む前と、読んだあと
読む前のあなた 変えられないもの(人柄・熱意)で評価されていると思っていた。だから落ちても、次の一手が決まらなかった。
読んだあとのあなた 評価軸が自分で操作できる変数(論理構造)だと分かっている。志望度が低い業界でも、根拠だけ差し替えれば通るという事実を知っている。
明日からやること
- やめる: 「熱意をもっと伝えよう」と考えること
- 始める: 自分の志望理由を4つの層に分解し、どこが業界共通で、どこだけを差し替えればいいのかを確かめること