ケース面接で、良い答えが出せる気がしない。
「コンビニの売上を2割上げるには」と言われても、斬新な切り口なんてその場で思いつかない。頭の回転が速い人だけが通る選考なのだろうと思って、受ける前から気持ちが折れている。
この記事の結論は、その前提が誤っているということである。見られているのは解の質ではない。過程である。 しかも、それには構造的な理由がある。
結論: 過程である
ケース面接の対策を始めると、多くの人が「良い答えを出さなければならない」と考える。斬新な切り口、誰も思いつかない解決策、鮮やかな一手。それを出せた人が通るのだと。
私の結論は、明確に逆である。見られているのは過程であって、解の質ではない。
そして、この結論には2段階の導出がある。一つは面接という場の物理的な制約から、もう一つはコンサルティングという仕事の性質からである。順に述べる。
導出の第一段: 解の質で差がつく前提が、そもそも成立しない
まず、単純な事実確認から始める。
ケース面接で出題される問いは、たとえば「あるコンビニチェーンの売上を1年で2割上げるには」「地方鉄道の赤字路線をどう立て直すか」といったものである。
これらは、実務のプロジェクトであれば、数週間から数か月かけて検討する問いである。 複数のコンサルタントが、データを集め、現場を訪ね、仮説を立てては検証し、クライアントと議論を重ねて、ようやく提言に至る。
その問いに対して、面接では10分から20分程度が与えられる。しかも、手元にデータはなく、業界知識も限られている。
この条件下で、数週間かけた検討の質を上回る解が出るはずがない。
これは能力の問題ではない。時間と情報の制約から導かれる、構造的な限界である。仮に極めて優秀な受験者がいたとして、その人が10分で出した解が、実務で数週間かけて出た解より優れているということは、原理的に起こりにくい。
とすると、面接官の側から見て、次のことが言える。
解の質を評価軸に置いても、受験者間の差はほとんど出ない。差が出ない軸で評価しても、選抜の役に立たない。
面接官も、この構造を理解している。だから、解の質を主要な評価軸には置かない。置くとすれば、その解に至るまでの思考の過程である。過程であれば、10分の中でも観測可能な差が出る。
導出の第二段: コンサルティングは、当たり前の結論を当たり前の理由で証明する仕事である
より本質的な理由はこちらである。
コンサルタントの仕事は、誰も思いつかない斬新なアイデアを出すことだと思われがちである。だが、実態はそうではない。私の理解では、コンサルティングとは、当たり前の結論を、当たり前の理由で証明する仕事である。
なぜそうなるのかを説明する。
斬新なアイデアは、そもそも商品にならない
企業が高い単価を払ってコンサルタントを起用するのは、意思決定の確度を上げるためである。多額の投資を伴う判断を下す前に、その判断が妥当であることを検証したい。
ここで、コンサルタントが「誰も思いつかなかった斬新な打ち手」を提案したとする。斬新であるということは、過去に検証された事例がなく、成功確率の見積もりが立たないということである。
意思決定の確度を上げるために起用したのに、確度の分からない選択肢を提示されても、クライアントは困る。当たる可能性が低い提案に高い単価を払う企業は、多くない。
したがって、実際に提示されるのは、多くの場合、業界の常識に照らして妥当な打ち手である。「この状況ならこうするだろう」と、事情を知る人が考える範囲の結論に落ち着く。
では、何に価値があるのか
結論が当たり前なら、コンサルタントの価値はどこにあるのか。
結論に至る根拠の構築である。
企業が大きな意思決定をするとき、意思決定者は組織の中で説明責任を負う。取締役会に、株主に、現場に、なぜその判断をしたのかを説明しなければならない。そのとき必要になるのが、判断を支える根拠の体系である。
- なぜこの課題が最重要なのか
- なぜ他の選択肢ではなくこれなのか
- どういう前提が成り立つとき、この打ち手は機能するのか
- 前提が崩れた場合、何が起きるのか
結論そのものは当たり前でも、それを支える根拠を体系的に組み上げる作業には、相当の工数と技術が要る。 そこに単価が付いている。
だから、ケース面接で観測すべきなのは、当たり前の結論に、どういう根拠を積めるかである。これは過程そのものである。
グループディスカッションと、まったく同じ構造である
ここで、ケース面接から少し離れて、グループディスカッション(GD)の話をする。この2つは、論理が完全に同型だからである。
私は、3日間のオンラインインターンシップで、9人1グループのGDを経験したことがある。そこで気づいたのは、次のことだった。
GDで評価されるのは、革新的なアイデアを出せる人ではなく、議論を進められる人である。
理由も同じ構造だった。
- 良いアイデアを出したからといって、採用する理由にはならない
- オンラインで9人がアイデアを出す場面では、似た発言が重複するため、印象に残らない
- 一方、議論を前に進める能力は、テーマに依存せずアピールでき、再現性がある
そして、GDのお題(「電車の満員率を下げるには」など)は、既に何度も議論し尽くされているテーマである。ぱっと思いつく当たり前の結論でよい。大事なのは、当たり前の結論を論理的に説明する能力である。
実際の仕事でも、同じことが起きている
なぜ「当たり前の結論を論理的に説明する能力」が重視されるのか。実務の構造がそうなっているからである。
仕事では、自分が説明した内容を、上位者が伝言ゲームの形式で、さらに上位の社員に説明することになる。つまり、自分の仕事は、上位者が説明するための根拠を用意することである。
結論だけを聞けば当たり前でも、説明には理由が必要になる。その理由を用意するのが仕事である。
これは、面接官が組織に対して合格理由を報告する構造と、まったく同じである。面接官も、上位者に説明できる材料を必要としている。ケース面接も、GDも、通常の面接も、「上位者が説明するための根拠を用意できるか」を測っているという点で、完全に一致している。
ケース面接では、具体的に何が観測されているのか
以上を踏まえて、「過程」の中身を分解する。私の理解では、次の要素が観測されている。
要素1: 前提を置けるか 問いは常に曖昧である。「コンビニの売上を上げる」の「コンビニ」がどういう立地の、どういう規模の店舗なのか。前提を置かずに議論を始めると、途中で議論が発散する。最初に前提を宣言できるかどうかが、最初の観測点になる。
要素2: 構造化できるか 売上を「客数×客単価」に分解し、客数を「新規×既存」に分解する。この分解が、漏れなく重複なく行われているか。分解の仕方に、問いに対する適切さがあるか。
要素3: 課題を特定できるか 分解した要素のうち、どこがボトルネックかを特定できるか。すべてに手を打つ提案は、優先順位を放棄しているに等しい。
要素4: 選択の理由を語れるか なぜその打ち手を選び、他を選ばなかったのか。ここが最も配点が高いと私は考えている。 選択の理由こそが、意思決定を支える根拠だからである。
要素5: 前提が崩れたときに立て直せるか 面接官は途中で必ず口を挟んでくる。「その前提は成り立たないとしたら」「そのデータが逆だったら」。ここで固まらずに、思考を組み替えられるか。
対策への含意
「過程が見られている」という結論から、対策の方向が決まる。
やるべきこと - 分解の型を身につける(売上、コスト、市場規模など、頻出の構造に慣れる) - 前提を宣言してから議論を始める癖をつける - 打ち手を選ぶたびに「なぜこれで、なぜ他ではないか」を言語化する癖をつける - 自分の思考を、口に出しながら進める練習をする(過程が観測されなければ、評価されようがない)
やらなくてよいこと - 斬新なアイデアを出す練習 - 業界知識を網羅的に暗記すること - 「正解」を暗記すること(頻出ケースの模範解答を覚えても、過程は身につかない)
特に最後の点は強調しておきたい。模範解答の暗記は、解の質を上げようとする対策であり、方向が誤っている。 暗記した解を出しても、その解に至る過程を自分で歩いていないので、面接官が「なぜそう考えたのか」と一段掘った瞬間に崩れる。
注意点
第一に、「過程が大事」は「解が何でもよい」を意味しない。 明らかに的外れな結論に至った場合、それは過程のどこかが破綻していることの証拠になる。解は、過程の健全性を測る指標として機能している。 解そのものが評価対象でないだけで、無関係ではない。
第二に、この主張は私の観察と推論に基づくものであり、ファームの評価基準を直接見たわけではない。 ただし、時間制約から導かれる第一段の論証は、評価基準の実態によらず成立すると考えている。
第三に、ファームや面接のフェーズによって、重視される要素は変わりうる。 初期フェーズでは構造化の基礎が、後期フェーズでは前提が崩れたときの立て直しが、より重く見られる傾向があると私は感じているが、これは検証された知見ではない。
この記事を読む前と、読んだあと
読む前のあなた 解の質を追いかけていた。斬新な答えが出せない自分には向いていないと思っていた。
読んだあとのあなた 解の質では差がつかない構造を理解している。実務で数週間かける問いに、数分で上回る解は原理的に出ない。だから過程を見せる練習に切り替えられる。
明日からやること
- やめる: 頻出ケースの模範解答を覚えること
- 始める: 前提を宣言してから始め、打ち手を選ぶたびに「なぜこれで、なぜ他ではないか」を口に出す練習をすること