新卒の就活でやっていたことが、中途で通用するのか分からない。
「新卒と中途はまったく別物だ」と言われる。だとすれば、一から組み直さなければならない。しかし、何から手をつければいいのかが分からない。
この記事の結論は、その前提が半分だけ正しいということである。証明すべきものは新卒も中途も同じ3点である。変わるのは配分と抽象度だけである。
通説「新卒と中途はまったく別の競技である」
転職の準備を始めた人がまず耳にするのは、「新卒の就職活動で通用したやり方は中途では通用しない」という話である。新卒は人柄とポテンシャル、中途は実績とスキル。見られているものが違うのだから、面接も別物として一から組み立て直せ、と言われる。
この通説は、結論としては半分正しく、構造としては誤っている。半分正しいというのは、実際に用意すべき回答の中身が大きく変わるからである。構造として誤っているというのは、評価軸そのものは何ひとつ入れ替わっていないからである。
そして、この違いを「別物だから作り直す」と理解するか、「同じ軸の配分が動いただけだから配分を組み替える」と理解するかで、準備の効率がまるで変わる。前者だと転職のたびに一からやり直すことになるが、後者なら新卒時代に作った資産をそのまま使い回せる。私の場合、新卒の就職活動で組み立てた考え方は、転職活動でもほとんどそのまま流用できた。
結論:証明すべきものは同じ3点セット。動くのは「配分」と「抽象度」だけである
私が新卒でも中途でも一貫して置いていた前提は、面接で証明すべきものは3点しかない、というものである。以下、本稿ではこれを「3点セット」と呼ぶ。
- ①御社の業務——その会社・その職種で、実際に何が行われているかの理解
- ②御社で活躍できる素養——①を踏まえたとき、活躍する人が持っている資質を、自分が持っているという証明
- ③御社を辞めない理由——中長期の自分の方向性と、会社の方向性が一致しているという証明
新卒であろうと中途であろうと、証明すべきものはこの3点である。志望動機も、自己PRも、ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)も、職務経歴書も、逆質問も、すべてこの3点のどれかを証明するための手段でしかない。
そのうえで、新卒面接と中途面接の間には次の差がある。
比重が高いもの - 新卒面接: ③御社を辞めない理由 - 中途面接: ②御社で活躍できる素養
要求される抽象度 - 新卒面接: 抽象的な回答が許容される - 中途面接: 具体的な証明が要求される
②の証明に使う素材 - 新卒面接: ガクチカ・自己PR(学生時代の経験) - 中途面接: 職務経歴(現職・前職の実務)
②の実質的な検査対象 - 新卒面接: 論理的思考力という汎用的な代理指標 - 中途面接: 経験の再現性そのもの
つまり中途面接とは、②の比重が高く、かつ②に具体的な証明が要求される面接である。新卒面接とは、③の比重が高く、かつ③に抽象的な回答が許容される面接である。
問題は、なぜそうなるのかである。本稿の中心はここにある。「中途は即戦力だから実績を見られる」という説明では、なぜ新卒では実績を見ないのかが説明できていない。新卒にも実績のある学生はいるからだ。この非対称性は、企業側が持っている情報の量と、投資の回収期間という2つの構造から導出できる。
なぜ配分が動くのか(1):企業側が持っている情報が根本的に違う
面接官の入力は2つしかない
まず前提として、面接官が持っている判断材料は2つしかない。ひとつは応募書類(新卒ならES、中途なら職務経歴書)、もうひとつは面接中に受験者が自分の口から発した言葉である。これ以外に面接官への入力は存在しない。
企業は、候補者の頭の中を直接のぞくことはできない。過去に候補者が本当に何をしたのかも、直接検証することはできない。企業が観測できるのは、候補者が提出した文書と、候補者が語った言葉という、いずれも候補者自身が編集した情報だけである。この情報の非対称性が、採用という行為の出発点にある。
中途では「同じ通貨」で測れる
ここで、中途採用における職務経歴には決定的な性質がある。それは、評価する側と評価される側が、同じルールの下にいるという点である。
中途の候補者が語る経験は、仕事という文脈で起きたことである。納期があり、予算があり、上司と顧客がいて、成果が金額や指標で測られる環境で発揮された能力の記録である。そして面接官も、まったく同じ環境で仕事をしている。だから面接官は、候補者の語る経験を自分の仕事に翻訳せずに理解できる。「その規模の案件でその役割なら、たしかにこの判断は難しかったはずだ」「その制約下でその結果なら、こういう能力がなければ成立しない」といった評価が、追加の推論を挟まずに成り立つ。
要するに、中途面接では経験の再現性を面接の場で直接検証できる。だからこそ検証しようとするし、検証できる以上、具体的でない回答は「検証を拒んでいる」と読まれる。中途面接で抽象的な回答が嫌われるのは、面接官が具体を好むからではなく、具体を出せば検証可能なのに出さないという事実自体が情報になってしまうからである。
新卒では「翻訳」が必要になり、その翻訳を検証できない
新卒の場合はまったく違う。候補者に社会人としての経験がない以上、語られるのは学生時代の経験である。サークル、アルバイト、研究、留学、部活。これらは仕事とは前提条件がまるで異なる。締切の厳しさも、責任の重さも、関係者の利害の複雑さも、失敗したときのコストも違う。
したがって面接官は、学生の経験をそのまま評価できない。「サークルで意見が割れたときに、全員が納得する落としどころを見つけた」という経験から、「この学生は入社後、利害の異なるステークホルダー間の合意形成ができる」という結論を出すには、学生の文脈から仕事の文脈への翻訳が必要になる。
そして問題は、その翻訳が正しいかどうかを、面接の段階で検証する手段が存在しないことにある。サークルでできたことが会社でもできるかどうかは、実際に会社で働かせてみないとわからない。これは面接官の力量の問題ではなく、原理的な限界である。どれほど優秀な面接官でも、社会人経験のない人間の経験に再現性があるかどうかを、数十分の面接で確実に見抜くことはできない。
結果として、新卒の②評価は「論理的思考力」に縮退する
では新卒面接で②をまったく見ていないのかというと、そうではない。見てはいるが、見ている中身が違う。
経験そのものの再現性が検証できない以上、面接官が観測できるのは「その経験をどう構造化して語れるか」という部分だけになる。目標を設定し、現状を把握し、課題を特定し、解決策を打ち、結果を出す——この一連のサイクルを、自分の経験の上で説明できるか。因果関係を飛ばさずに語れるか。深掘りに耐える一貫性があるか。
つまり新卒面接における②の評価は、経験の内容ではなく、経験を扱う思考の型に対して行われている。これは、経験の再現性を直接測れないことに対する代理指標である。実際、私が新卒の面接でIT業界向けに作ったロジックを、根拠だけ差し替えて金融業界の面接に持ち込んでも通用した。結論と構造は業界共通のまま、根拠だけを業界別に入れ替えるという操作が成立するのは、評価されているのが構造の側だからである。
派手な実績がなくても大手に通るのも、この構造から説明できる。派手な実績が評価されるのは実績そのものではなく、それを出した過程に再現性があるからだ。そして再現性は、無難なエピソードでも同じ論理構成で語れば同じように示せる。新卒の②評価が経験の内容ではなく構造に対して行われている以上、これは当然の帰結である。
なぜ配分が動くのか(2):投資の回収期間が違う
情報の非対称性だけでは、③の比重が新卒で高くなる理由の説明としてはまだ足りない。ここでもう一つの構造が要る。
採用は投資である
企業は採用に多額のコストを払っている。求人媒体費、エージェント手数料、社員の面接工数、内定後のフォロー、入社後の教育。投資である以上、企業が求めるのは「入社後に活躍する可能性が高く」かつ「簡単には辞めない」人材である。この2軸が、あらゆる選考プロセスの評価軸の源泉になっている。②は前者に、③は後者に対応する。
回収期間が長いほど、③の比重が上がる
新卒採用では、入社時点の生産性がほぼゼロである。ビジネスマナーから業務知識まで、すべてを教える必要がある。投資の回収が始まるのは早くても数年後で、その間ずっと企業は持ち出しである。
ということは、新卒採用における最大のリスクは「活躍しないこと」ではなく「回収前に辞めること」になる。教育投資を回収する前に離職されると、投資は丸ごと損失になる。しかも新卒採用は、同じ年次を同時に大量採用する構造上、一人あたりの精査に割ける時間が短い。リスクの大きさと、精査に使える時間の短さが同時に成立している以上、企業は最も損失インパクトの大きい変数、すなわち定着可能性を優先して見ることになる。
一方、中途採用では入社直後から一定の生産性が期待される。教育投資は新卒に比べて小さく、回収期間は短い。回収期間が短いということは、離職リスクの相対的な重みが下がるということである。代わりに前面に出てくるのは「本当に期待した生産性を出せるのか」という②の問題になる。
もう一段付け加えると、中途採用は多くの場合、埋めるべき欠員なりポジションなりが先に存在する。つまり「この業務を回せる人が要る」という具体的な需要から採用が始まる。だから①(御社の業務)が求人票の形であらかじめ明文化されており、②の中身も先に決まっている。新卒採用のように「優秀な人材をまとめて確保し、配属は後で決める」という構造とは、そもそも出発点が違うのである。
新卒の③は、原理的に抽象的にしか答えられない
さらに重要なのは、③に要求される抽象度の非対称である。
③御社を辞めない理由とは、要するに「中長期的に自分が進みたい方向と、会社が進もうとしている方向が一致している」ことの証明である。ところが、新卒の候補者は働いたことがない。働いたことがない人間が語る「中長期に進みたい方向」は、定義上、仮説にしかなりえない。だから新卒面接の③は、「中期経営計画やIR資料を読む限り御社はこの方向に進もうとしている、自分はこういうキャリアを歩みたい、方向が一致している」という水準の、抽象的な整合性の証明で十分成立する。それ以上具体的にしようがないからだ。
対して中途では、候補者はすでに一度キャリアの選択をしている。前回どういう理由で選び、その選択の結果どうなり、なぜ今回それを変えようとしているのか——という履歴が実在する。履歴が実在する以上、③の説明にも履歴との整合性が要求される。だから中途では「辞めない理由」の証明が、退職理由の説明と不可分になる(この点は転職理由の組み立てを扱う別稿で詳述する)。
なお、面接官が合否とその理由を組織に報告している、という前提が本稿の背後にはある。これは私が現職で採用活動に携わるなかで実際に見ている運用であり、推測ではない。他社の手続きの細部まで同一だと確認したわけではないが、面接官が単独で採用を決める企業は稀である以上、判断が言語化されて上位に渡ること自体はどこでも共通している。
この構造から導かれる、実務上の帰結
以上の導出から、準備の仕方が決まる。
新卒から中途に移るときに、変えないものと変えるもの
変えなくてよいものは3つある。3点セットという枠組みそのもの、①から②を導く順序(先に業務を理解し、そこから活躍に必要な素養を棚卸しし、最後に自分の経験を当てる)、そして③を作るためにIR資料・中期経営計画から会社の方向性を読む手順である。この3つは新卒と中途で完全に共通している。私はこの手順を新卒の就職活動で組み立て、転職活動でもそのまま流用した。
変えるべきものは次の3点である。
第一に、②の証拠を、学生時代の経験から現職の実務に差し替える。ここで「学生時代の経験のほうが劇的だから」といって新卒時代のガクチカを持ち出すのは、構造上の誤りである。中途面接では経験の再現性が直接検証できるため、仕事の文脈の外にある経験は、検証可能な証拠としては弱くなる。
第二に、②の粒度を上げる。抽象語(コミュニケーション能力、主体性、課題解決力)だけで止めない。どういう制約下で、何を判断し、その判断の理由は何で、結果どうなったか。中途面接ではこの粒度まで下りて初めて「証明」になる。
第三に、③の説明に退職理由との整合性を組み込む。新卒では③は志望動機だけで完結するが、中途では「なぜ辞めるのか」と「なぜ当社なのか」が同じ論理の裏表になっていないと、③が成立しない。
中途の準備で最も効率のいい順序
逆に言えば、中途面接の準備で最も効率がいいのは、①の理解を先に固めることである。①が固まれば②の棚卸し先が決まり、②が決まれば職務経歴のどこを前に出すかが決まる。求人票を読み、その職種が実際に何をしているかを理解し、カジュアル面談や面接の逆質問で「この職種で最も優秀だと思う人はどういう特徴を持っているか」を直接聞く。この質問は新卒の選考で使っていたものだが、中途でも同じように機能する。むしろ中途のほうが、面接官と自分が同じ職種の実務者であるぶん、返ってくる答えの解像度が高い。
この整理が効かない場合と、私の仮説にすぎない部分
最後に限界を書いておく。
第一に、中途採用のなかにもポテンシャル採用(いわゆる第二新卒枠や、未経験職種への転換採用)が存在する。この場合、経験の再現性を直接検証するという中途の前提が崩れるため、評価構造は新卒側に寄ると考えられる。すなわち②の抽象度が上がり、③の比重が戻ってくる。ただしこれは構造からの推論であり、私がその形式の選考を受けて確認したわけではない。
第二に、③の比重が新卒で高いといっても、企業や職種によってばらつきはあるはずである。教育投資が小さく回収が早い職種であれば、新卒でも②の比重が相対的に上がると考えるのが自然である。本稿の整理は平均的な傾向についての仮説であり、個別企業の運用を断定するものではない。
第三に、企業が「投資の回収期間」を明示的に計算して評価配分を決めているわけではない、という点は強調しておきたい。ここで述べたのは、採用が投資である以上こういう配分になるはずだ、という構造からの再構成であって、面接官の内心を観測した結果ではない。ただし、この再構成を採用すると、なぜ新卒面接であれほど「なぜうちなのか」を聞かれ、なぜ中途面接であれほど「そのとき具体的にあなたは何をしたのか」を聞かれるのかが、追加の仮定なしに説明できる。私はこの説明力をもって、この整理を採用している。
この記事を読む前と、読んだあと
読む前のあなた 中途を「別の競技」と捉えて、一から作り直そうとしていた。だから着手できなかった。
読んだあとのあなた 同じ3点セットを引き継げると分かっている。②を具体化し、③を経歴と整合させる。作り直すのではなく、調整するだけでいい。
明日からやること
- やめる: 新卒での準備を捨てて、ゼロから組み直すこと
- 始める: 3点セットのうち②(活躍できる素養)を、現職の経験で具体的に証明できる形に書き換えること