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面接解体新書第2弾|面接の評価構造

「なぜ?」の深掘り連打は何を検査しているのか — 終着点は反証できない解釈に置く

深掘りは意地悪ではなく、検査である

面接で「なぜ?」を三度も四度も重ねられると、詰められている、追い込まれていると感じる。だが面接官の側に立てば、これは攻撃ではない。限られた時間で、報告文に書ける根拠の強度を測るための検査手続きである。

検査である以上、何を測っているのかが分かれば、対策は設計できる。そして対策の到達点は、明確に一つに定まる。論理的に反証できない地点まで、自分の主張を降ろしておくことである。

以下、順に説明する。

深掘りが検査している2つの上位項目

まず前提として、面接官からのすべての質問は、突き詰めれば2つのどちらか(あるいは両方)を検証している。

  • 能力があるか(=②御社で活躍できる素養)
  • 簡単には辞めないか(=③御社を辞めない理由)

これは、採用が投資だからである。投資判断に必要な情報は「投じた資源が成果を生むか」と「回収前に離脱しないか」の2つしかない。深掘りもこの例外ではなく、どちらか、あるいは両方を測っている。

ただし、この2つは上位の目的であって、深掘りという手続きが直接観測しているものではない。深掘りが直接観測しているのは、次の3つのいずれかである。

検査項目1: 思考体力

一つの主張を、どこまで階層を下げて説明できるか。表面の1階層しか用意していない人は、2回目の「なぜ?」で答えが止まるか、循環しはじめる(「成長したいからです」「なぜ成長したいのですか」「成長すると力がつくからです」)。

これが測っているのは知識量ではなく、一つの問いに対して、自分で階層を降りていける耐久力である。実務では、クライアントや上司から「それはなぜか」と問われる場面が日常的に発生する。そこで階層を降りられない人は、根拠を用意する仕事ができない。

検査項目2: 自己理解

「なぜそう思うのか」を重ねていくと、いずれ他人からの借り物では答えられない地点に到達する。就活本に書いてあった言葉、OB訪問で聞いた言葉、業界の一般論。これらは2〜3階層で尽きる。

尽きたあとに何が残るかで、その人が自分の判断基準を持っているかが分かる。深掘りは、借り物の言語をふるい落とすフィルタとして機能している。

検査項目3: 面接への準備度合い(=ある種の熱量)

深く準備した人ほど、階層を降りられる。逆に言えば、階層の深さは準備量の代理指標になる。そして準備量は、志望度の代理指標になる。

したがって、志望動機に対する深掘りは、しばしば③御社を辞めない理由の検査として機能している。「どれだけ深く考えたか」は、「どれだけ本気か」の観測可能な形である。

なお、どの項目が測られているかは、どの質問への深掘りかによって変わる。ガクチカへの深掘りなら思考体力と自己理解、志望動機への深掘りなら自己理解と準備度合いが中心になる、と私は整理している。

深掘りが止まる地点はどこか

さて、対策の話に入る。

深掘りは無限には続かない。どこかで止まる。では、どこで止まるのか。面接官がそれ以上論理的に反証できなくなった地点で止まる。

ここが対策の急所である。深掘りに強くなるとは、階層を無限に用意することではない。「これ以上降りられない床」を自分で作っておくことである。

そして、その床になるものは一種類しかない。

「私が、経験を通じて、そう感じた/そう解釈したから」

なぜこれが床になるのかを説明する。

一般論は反証できる。「AはBだから」という主張には、「CもBではないか」という反例をぶつけることができる。事実に関する主張も反証できる。事実には正解があるからだ。

だが、「私はそう感じた」という主張は、他人が論理的に否定できない。 感じたことの真偽を外部から検証する手段が存在しないからである。面接官は「本当にそう感じたのか」と疑うことはできても、論理的に否定することはできない。反論の形式が存在しない以上、そこで深掘りは終わる。

具体例で見る — 「なぜIT業界なのか」

抽象論では分かりにくいので、実際に使っていた例で示す。

状況

私はIT業界で働きたいと考えており、志望動機でそう述べていた。当然、次の深掘りが来る。

面接官: 「なぜIT業界なのですか」

悪い答え方 — 一般論で答える

私: 「お客様の経営課題を解決するうえで、最も効果が高いのがITだと考えているからです」

一見すると、まともな回答である。論理も通っている。だが、これは即座に反証される。

面接官: 「でも、金融も人材も、経営にとって重要な資源ですよね。なぜITなのですか」

この反論に、私は答えられない。なぜなら、「ITが最も効果が高い」というのは客観的な命題の形をとっており、客観的な命題は客観的な反例に晒されるからである。金融も人材も物流も、それぞれの立場から「最も重要」と主張できる。私は、その主張を退けるだけの根拠を持っていない。

ここで詰まると、面接官の報告文には「志望動機が浅い」と書かれる。一般論で答えるということは、自分が持っていない立証責任を自分から引き受けることである。

良い答え方 — 経験に基づく解釈に降ろす

私: 「客観的にITが最も重要だと申し上げるつもりはありません。あくまで私にとって、ITのインパクトが最も大きく感じられた、という話です。というのも、アルバイト先で業務管理のITツールを導入したときに、それまで毎日1時間かけていた集計作業がほぼ消滅し、その時間が接客に回ったことで、店全体の雰囲気まで変わったのを見ています。仕組みを一つ変えるだけで、人の働き方と、その先のお客様への価値まで連鎖的に変わる。この連鎖の大きさを、私は自分の目で見た経験としてIT以外に持っていません。だからITを選んでいます」

この回答には、反論の形式が存在しない。

  • 「他の業界のほうが重要だ」→ その主張はしていない(客観的優位性を主張していない)
  • 「その経験は特殊ではないか」→ 特殊であることが論点である(私にとっての解釈だから)
  • 「本当にそう思ったのか」→ 論理的な反証ではなく、疑念の表明にすぎない

主張の形式を、客観命題から主観的解釈に変換することで、立証責任そのものを消している。 これが「論理的に否定できない回答」の正体である。

なぜこれが評価されるのか — 逃げているのではない

ここで、重要な誤解を潰しておく必要がある。

「反証できない形式に逃げ込んでいるだけではないか」という批判は成立しうる。実際、中身のない主観を並べても、深掘りは止まらない。

止まるための条件が、一つある。その解釈が、具体的な経験に接続されていることである。

上の例をもう一度見てほしい。「私はそう感じた」だけでは終わらない。「アルバイト先でITツールを導入したときに、集計作業が消滅し、接客に時間が回り、店の雰囲気が変わった」という、観測可能な事実の記述が支えている。

この構造は、次のようになっている。

  • 主張(反証不可能な解釈)
  • ↑ それを支える 経験(観測可能な事実)
  • ↑ さらに、その経験から解釈への飛躍が自然であること

面接官が検査しているのは、主張の真偽ではなく、経験から解釈への飛躍が自然かどうかである。経験が具体的で、そこから解釈が無理なく導けるなら、面接官は「この人は自分の経験から自分の判断基準を作っている」と読む。これは検査項目2(自己理解)そのものであり、報告文にそのまま書ける。

逆に、経験の裏づけがない解釈は、「なぜそう感じたのですか」でもう一段掘られる。そこで「何となくです」となれば、床は抜ける。床は、経験を敷いて初めて床になる。

準備の手順

以上を踏まえると、準備は次のように設計できる。

手順1: 自分の主張を全部書き出す 志望業界、志望職種、志望企業、強み、ガクチカで示したい素養。ES に書いた内容と、面接で言うつもりの内容を並べる。

手順2: それぞれに「なぜ?」を5回ぶつける 自分で自分に問う。紙に書きながらやる。3回目あたりで、たいてい言葉が出なくなるか、循環しはじめる。そこが現在の自分の床である。

手順3: 床が一般論になっていないかを点検する 床が「一般に〜だから」という形になっていたら、そこは床ではない。反証可能な壁である。壁は、面接官の一言で崩れる。

手順4: 一般論の床を、経験に基づく解釈に置き換える 「なぜそう考えるようになったか」を、時系列で遡る。必ず、そう考えるきっかけになった具体的な出来事がある。ないなら、その主張は本当は自分のものではない可能性が高い。その場合は、主張のほうを変えるべきである。

手順5: 経験の記述を、観測可能な粒度まで具体化する 「バイトで大変だった」ではなく「毎日1時間の集計作業があった」まで降ろす。粒度が粗いと、そこにもう一段の深掘りが入る。

手順6: 経験から解釈への飛躍を、自分で点検する 「その経験から、その解釈が自然に出てくるか」を第三者目線で見る。飛躍が大きいと、面接官はそこを突く。

実務上の注意点

最後に、この技法の限界と留意点を3つ書いておく。

第一に、この技法は「議論の打ち切り」に使える強力さを持つがゆえに、乱用すると薄さが露呈する。 本当に理由を考えていない場合の逃げ道として「私がそう感じたので」を使うと、面接官は経験の具体性を掘りに来る。そこで具体が出てこなければ、逃げていることが即座に分かる。この技法は、深く考えた人が、その思考の到達点を守るための道具であって、考えていない人が身を守るための盾ではない。

第二に、すべての主張をこの形式にする必要はない。 事実で答えられることは事実で答えればよい。「なぜ弊社の◯◯事業に興味があるのか」に対して、IR資料の記述から論理的に説明できるなら、そのほうが強い。主観への変換が必要になるのは、価値の優劣という、客観的には決着しない論点に踏み込んだときだけである。

第三に、面接官の反応で床の強度が分かる。 床が効いていると、面接官は深掘りをやめて、別の質問に移る。あるいは「なるほど」と言って頷く。逆に、床が抜けていると、同じ論点を角度を変えて聞き直してくる。同じテーマで3回以上聞き直されたら、その主張の床は抜けていると判断してよい。その場では持ちこたえるしかないが、面接後に必ずその論点を作り直しておくべきである。


この記事を読む前と、読んだあと

読む前のあなた 深掘りに耐えようとしていた。3回目くらいで答えが尽きるので、面接そのものが怖くなっていた。

読んだあとのあなた 深掘りが必ず止まる終着点を知っている。「私が経験を通じてそう感じた」という、他人が論理的に否定できない地点まで、事前に降ろしておける。

明日からやること

  • やめる: 深掘りされたときに、その場で耐えようとすること
  • 始める: 自分の主張に「なぜ?」を5回ぶつけ、床が一般論になっていないかを点検すること。一般論の床は、面接官の一言で崩れる
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