― 面接の原則
本記事は、このアカウントで発信するすべての記事の土台にあたる。個別のテクニックを一つも書いていない代わりに、すべてのテクニックがここから導出される。
就活のテクニックは、調べれば調べるほど増えていく。
結論ファーストで話す。逆質問は3つ用意する。ガクチカはSTAR法で組み立てる。志望動機は企業理念と紐づける。ノートは埋まっていく。それなのに、本に書いていない状況が来た瞬間、何ひとつ応用できない。
想定外の質問が来たら。オンラインと対面で勝手が違ったら。集団面接で先に同じことを言われたら。テクニックのリストは、リストにない事態に対して沈黙する。
この記事では、テクニックを一つも教えない。代わりに、すべてのテクニックが導き出される元の原則を渡す。
なぜテクニックは、覚えても効かないのか
個別のテクニックには、共通の欠陥がある。なぜそれが効くのかが説明されていない。 説明されていないから、書かれていない状況に出会った瞬間、応用が効かなくなる。
私はこの逆をやる。
少数の原則を先に渡す。テクニックは、そこから自分で導いてもらう。
このアカウントで書いている記事は、すべてこの原則から導出されたものである。そして原則さえ持っていれば、私が書いていない状況に対しても、読者は自分で答えを出せる。
以下が、その原則である。
第1部: 根っこにあるのは、3つの事実だけ
すべての出発点は、次の3つである。この3つは、意見でも仮説でもなく、採用という制度の事実である。
そして、この3つはそれぞれ違う問いに答えている。
事実A - 問い: 何が評価されるのか - 答え: 活躍する可能性と、辞めない可能性の2つだけ
事実B - 問い: どういう形式でないと評価に残らないのか - 答え: 論理
事実C - 問い: 何から評価されるのか - 答え: ESと、面接での自分の発言。この2つだけ
順に説明する。
事実A ― 採用は投資である。だから評価軸は2つしかない
企業が人を採用するとき、そこには相当のコストがかかっている。採用活動そのものの費用、入社後の教育コスト、戦力になるまでの人件費。新卒であれば、投じた資源が回収され始めるまでに数年かかる。
つまり、採用は投資である。
投資である以上、判断に必要な情報は決まっている。投資家が知りたいのは、常にこの2つだけである。
① この投資は、リターンを生むか
② 回収する前に、失われないか
これを採用に翻訳すると、こうなる。
① この人物は、当社で活躍する可能性が高いか(活躍可能性)
② この人物は、回収前に辞めてしまわないか(定着可能性)
面接で問われていることは、この2つに尽きる。 そして、この2つ以外は問われていない。
この2軸から、多くの通説が消える
この一点を握るだけで、就活の通説の大半は評価軸の外側に落ちる。
- 「明るくハキハキしている」→ それで活躍するのか? 辞めないのか? 直接には答えていない
- 「企業理念に共感している」→ 共感は定着の傍証になりうるが、それだけでは弱い
- 「御社が第一志望です」→ 定着可能性の主張だが、根拠がなければ言葉だけである
- 「企業のホームページを暗記した」→ どちらの軸にも載らない
評価軸に載らないものは、どれだけ努力しても結果に影響しない。 就活で消耗する人の多くは、軸の外側に努力を投じている。
逆に、この2軸に載るものは強い
- 「学生時代、対立する意見を調整して合意を作った経験がある」→ 活躍可能性の証明
- 「中期経営計画の方向と、自分が進みたい方向が一致している」→ 定着可能性の証明
この2つが揃えば、それ以上は要らない。 ここが、このアカウントが「準備すべきものは少ない」と言い切れる根拠である。
事実B ― 面接官は、組織に理由を報告している。だから論理が唯一の通貨になる
2つ目の事実は、面接官の立場に関するものである。
面接官は、面接が終わったあと、人事部あるいは自部門に対して、合否とその判断理由を報告している。
これは推測ではない。私は現職で採用活動に携わっており、この運用を内側から見ている。面接官に事前に何が渡され、面接後に何を提出することが求められ、それが次の工程でどう使われるか。面接官は、自分の判断を組織に説明しなければならない。
(直接見ているのは自社の運用なので、他社の手続きの細部まで同一だとまでは言えない。ただし、面接官が単独で採用を決める企業は稀である以上、判断が言語化されて上位に渡ること自体は、構造上ほぼ避けられない。)
この事実から、2つの重要な系が導かれる。
系B-1: 面接とは、面接官に「合格を出す理由」を渡す時間である
面接官が探しているのは、好きになれる学生ではない。上司や人事に対して「この人物を通した理由」として提出できる材料である。
だから受験者の仕事は、自分を良く見せることではない。面接官が組織に説明するための材料を渡すことである。
この転換は、思っている以上に大きい。「どう見られるか」から「何を渡すか」へ、視点が受け手側に移るからである。
系B-2: 組織に説明できる形式は、論理しかない
面接官が上長に「なんとなく良さそうでした」と報告したら、どうなるか。「で、なぜ通したのか」と聞き返されて終わりである。
報告として成立する形式は、一つしかない。
「当社の◯◯という業務で求められる△△という素養を、□□という経験で示していた。だから通した」
論理である。 そして論理以外の形式は、報告の過程で消える。
だから私は、面接において論理は唯一の通貨であると言う。実際、私は志望度が低くまったく準備していなかった金融業界の選考でも、ITと同じ論理構造の根拠だけを差し替えて全通している。業界の知識がなくても、論理さえ通っていれば通った。逆に、私が落選したときは、いずれも論理が通っていなかったときである。
この事実が与えてくれる、唯一の自己チェック
そして系B-2からは、極めて実用的な検査手順が導かれる。このアカウント全体で、最も使う道具である。
自分の回答を、「面接官が上長に報告する一文」に翻訳してみる。
「この学生は◯◯だから通した」の◯◯に、自分の回答から取り出した言葉を入れる。
ここに入る言葉が「ハキハキしていた」しか出てこないなら、その回答は評価に残らない。「当社の業務で必要な△△を、□□という経験で示していた」と書けるなら、その回答は機能している。
ESでも、ガクチカでも、志望動機でも、逆質問でも、この一つのテストで判定できる。
事実C ― 面接官が持っている情報は、2つしかない
3つ目は、制約に関する事実である。
面接官への入力は、①ESと、②面接中に自分が発した言葉の、2つしかない。
これ以外に、面接官への入力は存在しない。面接官はあなたの人格を知らないし、あなたが本当はどれだけ優秀かも知らない。知りようがない。面接官が知っているのは、紙に書かれた情報と、その場で耳に入った言葉だけである。
そして、ESは提出済みで、面接の場では動かせない。
系C-1: 自分の発言をコントロールできれば、結果をコントロールできる
面接において、自分が動かせる変数は、自分の発言ひとつだけである。
これは、面接を運や相性から切り離す。面接は制御可能な対象になる。同時に、責任も自分に戻ってくる。落ちたのは相性ではなく、自分が発した言葉の総体がそう判定させたのである。
系C-2: 加点と減点は、対称ではない
ここは重要なので、丁寧に書く。
加点は、面接官の解釈である。 「論理的だ」「主体性がありそうだ」といった評価は、いくつかの発言から面接官が組み立てた推測である。推測である以上、輪郭は曖昧で、他の材料によって上書きされうる。
減点は、事実として残る。 「メンタルが弱いと本人が言った」「前の発言と矛盾したことを言った」。これらは解釈ではなく、その場で起きた出来事である。面接官が思い返すときも、報告書に書くときも、事実は曖昧化しない。
したがって、一度発生した減点は、後からの加点で相殺しにくい。
私はこれを、大手証券会社の面接で学んだ。面接の最後に「あなたはメンタルが強そうですね」と言われ、「いえ、落ち込むこともあります」と答えた。それだけで落ちた。数十分かけて積み上げた解釈が、最後の十秒の事実に負けた。
ここから導かれる行動原則が、これである。
「もっと良いことを言おう」ではなく、「余計なことを言わない」。
余計なことを言わない技術は、話し方の技術ではなく、勝率の技術である。
3つを合わせると、面接の定義が出る
事実A・B・Cを一文にまとめると、面接とは何かが定義できる。
面接とは、①ESと自分の発言だけを材料に、②活躍可能性と定着可能性を、③論理という形式で、面接官に渡す作業である。
この一文が、すべての記事の出発点である。以降の原則は、すべてここから導かれる。
第2部: そこから導かれる、7つの運用原則
原則1: 証明すべき材料は3つ ―― 「3点セット」
事実Aで、評価軸は2つだと述べた。では、その2つを証明するために何を用意すればいいのか。
私は、次の3点に整理している。
- ① 御社の業務 … その会社・職種で、実際に何が行われているかの理解
- ② 御社で活躍できる素養 … ①を踏まえたとき、成果を出す人が持っている資質を、自分が持っている証明
- ③ 御社を辞めない理由 … 中長期の自分の方向性と、会社の方向性が一致している証明
「軸は2つなのに、なぜ材料は3つなのか」
ここは混乱しやすいので、明確にしておきたい。①は、②や③と並ぶ第3の評価軸ではない。
- ②が、活躍可能性(軸1)の証明にあたる
- ③が、定着可能性(軸2)の証明にあたる
- ①は、②を導き出すための前提である
なぜ①が要るのか。業務が分からなければ、そこで活躍する素養を定義できないからである。「営業で活躍する人は失敗を怖がらない」という②は、「アポが取れても成約率は低いので試行回数が要る」という①を知っていて初めて出てくる。
つまり構造はこうなっている。
採用は投資である
その下に、評価軸が2つぶら下がる。
- 軸1: 活躍可能性 → これを証明するのが ②御社で活躍できる素養
- 軸2: 定着可能性 → これを証明するのが ③御社を辞めない理由
そして ①御社の業務 は、軸ではなく、②を導き出すための前提として、②の一段下にある。
そして①には、副次的な効果もある。 業務をここまで調べているという事実自体が、志望度の証明になり、③の傍証としても働く。IR資料を読んだことが評価されるのは、この経路である。
すべての設問が、3点セットに還元される
そして、選考のすべての要素は、この3点のどれかを証明する手段として位置づけられる。
要素 → 主に担う証明
- ガクチカ … ②
- 自己PR … ②
- 志望動機 … ③(+①)
- 入社後にやりたいこと … ① + ③
- 自己分析系の設問 … ③
- 逆質問 … ①②③すべて
- 職務経歴(中途) … ②
- ケース面接 … ②(思考の過程として)
ESの設問が何を聞いているか分からなくなったら、この対応に戻ればいい。
原則2: 抽象を先に決め、具体を後から拾う
回答が思いつかないという悩みは、ほぼ例外なく探索の順序が逆になっていることから来ている。
具体から探すというのは、「自分の20年分の記憶を全部並べて、その中から面接で評価されそうなものを選ぶ」という作業である。これには2つの欠陥がある。
- 探索空間が大きすぎる。構造化されていない記憶の全件走査は、人間の作業として現実的ではない
- 評価関数が存在しない。何を証明したいかが決まっていないので、ある経験が使えるかどうかを判定できない
判定できないから選べない。選べないから「思いつかない」という感覚になる。実際には思いつかないのではなく、思いついた候補を採否判定できないまま捨てている。
抽象を先に決めると、両方が解消する。
「合意形成をした場面」に該当する記憶だけを呼び出す
探索空間が桁違いに小さくなり、「この経験は合意形成を示しているか」というイエス・ノーで判定できるようになる。
だから順序はこうなる。
- 志望職種の業務を分解する(①)
- そこで活躍する人物像を一文で定義する(②)
- それを、回答の冒頭に置ける抽象的な一文に翻訳する
- その抽象を検索クエリにして、記憶から具体を拾う
- 拾った具体を、抽象が伝わる粒度で語り直す
自分の中を見るのは、4番目になってからである。
原則3: 経験の種類は問われていない。問われているのは過程の再現性である
派手な実績が評価されるのは、実績が派手だからではない。結果に至る過程が説明しやすいからである。
面接官が組織に報告するとき、「実績が派手だったから採用した」は理由にならない。上長は「で、うちで活躍するのか」と聞き返すだけである。報告に載るのは、「同じ状況で同じことができる」という再現性の根拠である。
そして再現性は、過程にしか宿らない。「うまくいった」という事実は、たまたまうまくいった場合にも生じる。どういう基準で判断したかが語られて初めて、それは再現性の証明になる。
だから、あなたが本気で何かに打ち込んだのなら、材料はすでに手元にある。足りないのは経験ではなく、それを面接官が評価できる形に翻訳する技術である。
変換前: 「サークルの代表として、新歓活動の運営を担当しました」
変換後: 「サークルの代表として、前年比で新入部員の定着率を改善しました。定着率が低い原因を、①入部前の期待とのずれ ②同期との接点の少なさ ③活動の負荷、の三つに分解し、実際に辞めた人へのヒアリングから②が主因だと判断して、初期の交流設計を作り直しました」
同じ経験である。 盛ってもいないし、事実を足してもいない。していたことを、聞き手が評価できる粒度で言い直しただけである。
原則4: 深掘りの終着点は、「経験を通じてそう感じた」に置く
一般論は反証できる。「AだからB」という主張には、「CもBではないか」という反例をぶつけられる。
だが、「私が、経験を通じて、そう感じた」という主張は、他人が論理的に否定できない。 感じたことの真偽を、外から検証する手段が存在しないからである。反論の形式が存在しない以上、そこで深掘りは終わる。
ただし条件がある。その解釈が、具体的な経験に接続されていること。 経験の裏づけがない主観は、「なぜそう感じたのですか」でもう一段掘られて崩れる。
- 主張(反証不可能な解釈)
- ↑ それを支える 経験(観測可能な事実)
- ↑ さらに、経験から解釈への飛躍が自然であること
面接官が検査しているのは、主張の真偽ではなく、経験から解釈への飛躍が自然かどうかである。
原則5: 選考には性質の違う関門が2つある。手を入れる場所を間違えない
選考は一続きに見えるが、実際には評価の原理がまったく違う2つの関門でできている。
関門1: 書類選考
- 判定材料は、学歴とWebテストのスコア
- 判定の原理は、定量指標による機械的な足切り
- ESの本文は、ほぼ読まれない
関門2: 面接
- 判定材料は、ES本文と面接での発言
- 判定の原理は、論理の評価
- ESの本文は読まれる。そして面接の議題を規定する
数千通のESを限られた採用メンバーが精読することは、物理的に不可能である。だから関門1は定量で処理される。
ここから、重要な帰結が出る。ESは、書類を通すための文書ではない。面接で何を話すかを自分で決めるための、事前打ち合わせ資料である。
面接官は手元のESを見て質問を組み立てる。つまりESに書いた内容が、面接の議題になる。 これは受験者にとって有利な構造である。自分が話したいテーマを、自分で設定して提出できるのだから。
そして、症状と処方の対応はこうなる。
症状 → 直すべきもの
- 書類が通らない … Webテスト。ESではない
- 書類は通るが、面接で落ちる … ES。ただし文章ではなく、3点セットの設計
この2つを取り違えている限り、どれだけ努力しても結果は動かない。 私自身、30社落ちながらESを書き直し続けていたのは、上段の症状に下段の処方を当てていたからである。
(実際、私は30社落ちていた時期のESを一文字も変えないまま、Webテストの対策だけで通過率を8割まで上げている。ESを改善したのは、書類が通るようになったあと、面接で勝つためである。)
原則6: 前倒しが必要なのは、Webテストだけである
準備すべきものは少ない。そして、時間軸の前倒しが必要なものは、さらに少ない。ただ一つ、Webテストの対策である。
理由は、ここだけが構造的に取り返しがつかないからである。企業によっては、夏のインターンシップ選考で受検したWebテストの結果を、その後の本選考でもそのまま使い回す。私の友人は、これによってその企業の選考をそもそも受けられなくなった。
面接の技術は、あとからいくらでも身につく。だがWebテストのスコアは、一度紐づくと動かせない場合がある。
裏を返せば、それ以外はすべて、好きなことに使っていい。 3点セットの設計は数か月あれば身につく技術であり、前倒しする必要がない。一方、あなたが本気で打ち込んだ経験のほうは、あとから作れない。
先に、本気で打ち込む。あとから、翻訳を学ぶ。
原則7: 内定を最大化することと、幸せに働くことは、別の最適化である
最後に、このナレッジ自体の性質について書いておく。
ここまで述べてきた原則は、すべて「内定を目的関数に置いた場合の最適解」である。志望職種のペルソナに自分を寄せる、第一志望でなくても第一志望と言う、退職理由のうち再発しない側面を選んで前面に出す。これらはいずれも内定確率を上げるが、入社後の満足を最大化する行動とは限らない。
だから私は、記事の中で繰り返しこの留保を書いている。
内定を取る技術と、自分に合う場所を選ぶ判断は、切り離して持っておいたほうがいい。 前者は技術であり、学べば身につく。後者は自分にしか決められない。
そして、この2つを切り離せると、内定を取ったうえで「行かない」と決めることもできる。 私は転職活動で内定を得たうえで、現職に留まった。選考を通過する技術は、行き先を増やすためのものであって、いまいる場所を否定するためのものではない。
第3部: すべてを貫いているもの ―― 面接の構造は、実務の構造と同型である
ここまで読んで、気づいた人もいるかもしれない。私が面接について述べていることは、そのまま仕事について述べていることでもある。
対応を並べてみる。
面接 → 実務
- 面接官は、上長に合格理由を報告する … 担当者は、上司に判断の根拠を報告する
- 「なんとなく良かった」は報告に載らない … 「なんとなく良さそう」は決裁に載らない
- 論理でなければ次工程に渡らない … 論理でなければ意思決定に使われない
- 当たり前の結論を、論理的に説明する力が問われる … 当たり前の結論を、当たり前の理由で証明するのが仕事
- 上位者が説明できる材料を渡すのが受験者の役割 … 上位者が説明できる根拠を用意するのが担当者の役割
グループディスカッションで評価されるのが「革新的なアイデアを出す人」ではなく「議論を進める人」なのも、ケース面接で見られているのが「解の質」ではなく「過程」なのも、まったく同じ構造から来ている。斬新さは商品にならない。上位者が説明できる根拠を組み立てられることが、価値になる。
つまり、こういうことである。
面接は、仕事のシミュレーションである。
だから、面接で問われている能力は、そのまま実務で問われている能力である。
この対応関係には、実利がある。
第一に、面接対策は無駄にならない。 ここで身につけた「相手が説明できる形に材料を整える」という技術は、入社後にそのまま使える。
第二に、迷ったら実務で考えればいい。 面接で何が正解か分からなくなったとき、「これが職場で起きたら、上司は何を求めるか」と置き換えると、たいていの答えは出る。
第4部: 原則の使い方 ―― 書いていない状況に、自分で答えを出す
冒頭で述べたとおり、この原則系の価値は、私が書いていない状況にも読者が自分で答えを出せることにある。実演してみせる。
例1: 「面接で緊張して声が震えてしまいます。どうすればいいですか」
- 事実Cより、面接官への入力は発言のみ。声の震えは減点の「事実」として残りうる
- ただし事実Aより、評価軸は活躍可能性と定着可能性。声の震え自体は、どちらの軸にも直接は載らない
- 事実Bより、報告文に「声が震えていた」とは書かれても、それは合否理由にならない
→ 結論: 対処すべきは声そのものではなく、震えによって発言量が落ちて材料が渡せなくなることである。 話す量を減らし、間を取り、渡すべき材料だけを確実に渡す設計に切り替えればよい。声を直す練習に時間を投じる必要はない。
例2: 「アルバイト経験しかありません。それでも大丈夫ですか」
- 原則3より、経験の種類は問われていない。問われているのは過程の再現性
- 原則1より、必要なのは②の証明。アルバイトでも②を示せるなら成立する
- 原則2より、先に②を決めて、そこから該当する場面を探せばよい
→ 結論: 大丈夫である。ただし、地味な素材は「結果の定義」から自分で始める工程が一つ多い。 そこを飛ばして活動内容を並べると、情報量がゼロになる。
例3: 「最終面接で、社長に『君は何がしたいの』と聞かれました。何を答えるべきでしたか」
- 原則1より、最終面接の重心は③(定着可能性)にある
- 事実Aより、社長が知りたいのは「この人物は回収前に辞めないか」
- 原則1より、③の証明は「中長期の自分の方向性と会社の方向性の一致」
→ 結論: 「やりたいこと」を語る質問に見えるが、実際には定着可能性の検査である。 自分の方向性を述べ、それが会社の中期的な方向と重なることまで示して初めて、答えになる。
この原則系の限界
最後に、正直に限界を書いておく。
第一に、事実Aの2軸が成立しない選考がある。 専門性が要件になっている職種、実質的に即戦力性を見る選考では、活躍可能性が「現時点のスキル」で直接測られる。この場合、「経験の種類は問われていない」という原則3は適用できない。
第二に、原則5の「書類はESを読んでいない」は、応募者数が多い企業に強く当てはまる。 応募者が数十人規模の企業、ベンチャー、リファラル経由では、最初からES本文が読まれていると考えるほうが自然である。
第三に、これは私一人の観測に基づく体系である。 私が事実として持っているのは、この理解で自分の選考が通ったという経験と、現職で採用側として運用を見ている経験の2つである。統計的に検証されたものではない。
そのうえで、この原則系は、私が観測した範囲では例外なく機能した。そして何より、これを持っていれば、就活のために消耗する時間が劇的に減る。 それがこのアカウントの目的である。
この記事を読む前と、読んだあと
読む前のあなた テクニックを一つずつ覚えていた。覚えた数だけ準備できたつもりでいたが、想定外の場面では手が止まっていた。
読んだあとのあなた 3つの事実と7つの原則を持っている。書かれていない状況が来ても、そこから自分で答えを導き出せる。
明日からやること
- やめる: 新しいテクニックを集めること
- 始める: 手元にあるテクニックを一つ選び、「これは3つの事実のどれから出ているのか」を確かめること。導けないものは、覚える必要がない